基礎から学ぶQMSの本質 第5回 品質の捉え方その2(2016-2-22)
2016.02.22
前回は、品質管理は商品・サービスの品質を維持し改善することを直接的な目的にしていますが,それを介して企業体質の改善の道具としても発展してきたことをご説明しました.
経営に与えるマイナスの影響,すなわちコストや損失という視点から品質を捉えることもできるため,今回,第5回目“品質の捉え方その2”では,この点について説明したいと思います.
■品質(ロス)コスト
高品質な商品・サービスを顧客に提供し続けるためには,そのための費用(コスト)が必要になります.それは以下の2つに分類されます.
(1)商品・サービスの品質を維持するための管理にかかるコスト (Cost of Quality)
(2)失敗の発生に伴って企業が被ることになるコスト,損失(Cost of Poor Quality)
(1)はさらに,
a) 予防コスト(Preventive Cost)と
b) 評価コスト(Appraisal Cost)
に分けられます.
(2)は失敗コスト(Failure Cost)と言われるもので,組織の内外での発生に着目して,
c) 内部失敗コスト(Internal Failure Cost)と,
d) 外部失敗コスト(External Failure Cost)
に分かれます.
a) の予防コストの代表例には,製品設計の妥当性を評価するためのデザイン・レビュー費,部材を納品してくれるサプライヤーへの品質技術指導費,品質に関わる教育・訓練費などがあります.
b) の評価コストとは,狙いの品質になっているかどうかを検査・確認するためにかかる費用であり,受入れ検査費,工程内の中間検査費,完成品検査費,または設計時に行う各種信頼性試験などの費用が含まれます.
c) の内部失敗コストとしては,まずは(中間)製品の修繕,手直し費,廃棄費や設計変更費が挙がるでしょう.さらに,不良や設備トラブルの発生に伴って起こる生産性低下,過剰な在庫費も該当します.
d) の外部失敗コストの代表例は,市場クレーム対応費であり,この中には代替品交換費,補償費,製品回収費,損害賠償費がありますね.さらに,これらの市場クレームの発生による風評被害,企業のブランド価値低下に伴う,売り上げ機会損失なども無視できません.
このように,品質に関わるコストを上記のa)~d)のように捉える方法はPAFアプローチ(Prevention-Appraisal-Failure approach)と呼ばれています.
高品質な商品・サービスを提供するということ,すなわち品質を追求するということは,d)は当然ながらc)のコストを極力低く抑えることにつながります.
そのためには,a)やb)のコストが多少膨らむかもしれませんが,c)とd)にかかる額と比べればその桁数は非常に小さいので,a)~d)までの総費用を大きく改善(低減)することが可能なのです.
当然ながら,これらの品質コストは企業の利益を直接的に圧迫します.
製品別,工場別,事業部別でこれらの品質コストがどのぐらい発生しているか,またどのぐらい差やバラツキがあるかを把握し,その結果として御社の利益をどのぐらい押し下げているかを定量的に評価してみることをお勧めします.
■守りの品質,攻めの品質
このように,品質コストの総費用を極力抑える品質管理活動のことを“守りの品質”と表現することがあります.
企業の品質保証,品質管理の部門に所属している方は,この“守りの品質”にフォーカスを当てた活動をなさっていることが多いように見受けられます.
d)の外部失敗コストを最優先で削除しながら,次第にc)の内部失敗コストの低減に向けた活動を推進し,最終的にはb)の評価コストさえも低減対象として広げて,品質コストの総費用の多くをa)の予防コストにかける,という理想の状況を目指しているのかもしれません.
これはこれで,「利益=売り上げ-原価」の原価を低減し,利益を押し上げる手段として,大変意義のある活動です.一方で,“攻めの品質”はどうでしょうか?
その心は,品質で儲けようとしていますか?ということです.上の利益の計算式で言えば,売り上げを増加させるための活動です.
企業のホームぺージの中に“守りの品質から攻めの品質へ”という言葉をよく目にしますが,この後半の言葉に対して,品質保証,品質管理の部門の方でどのぐらいそれは自分が中心となって積極的に果たすべき役割だと認識されているでしょうか.
繰り返しになりますが,良い品質とは,顧客のニーズを満たしていることを指しています.
顧客に快く受け入れられ,市場で良く売れるもの,です.品質保証,品質管理部門が品質を追求することの社内の旗振り役であるならば,守りの品質に留まらず,攻めの品質に力点を置くことが期待されているのです.
(金子雅明)