基礎から学ぶQMSの本質 第3回 顧客に何を提供しているか(2016-2-8)
2016.02.09
基礎から学ぶQMSの本質シリーズ,第3回目は“顧客に何を提供しているのか”です.
■商品・サービスを提供している?
多くの皆さんは,当然,自社の商品・サービスを顧客に提供していると回答しますが,果たして本当にそうでしょうか?
既に先の真・品質経営シリーズにおいて説明しておりますが,例えばスターバックスは顧客に何を提供しているのでしょうか?
コーヒーを提供している,と答えそうですが,少なくともスターバックスの方はそう思っていません.
彼らにとってお客さんに提供しているのは,“ひとりでホッとできる空間”です.
本当にコーヒーが欲しいのであれば,コンビニエンスストアの100円のコーヒーを買えばよく(味も相当に改良されていますね),わざわざコーヒー1杯が300円以上もするスターバックスにお客さんが行くのは,コーヒーそのものではなく,それを通じて提供された“ひとりでホッとできる空間”を欲しているからなのです.
先日,あるハウスメーカーの方と話をする機会がありました.
当然,お客様には“戸建”という目に見える物的な商品を提供しているわけですが,この商品の品質の良し悪しを議論しているうちに“お客様がどんな生活や人生を送りたいのか”が一番大切であるという結論に至りました.
ご存じのとおり,一戸建てはお客様にとって一生に1度あるかないかの大きな買い物であり,そこで数十年は住まわれるわけです.
子連れ家族であれば,20年も経てばその子供は大きくなり,小・中・高校,そして大学に行って社会人になるわけですし,両親も年を取り,今よりもずっと足腰が悪くなっています.
おじいちゃんやおばあちゃんの世話をすることになるかもしれません.
一家の大黒柱である父親からすれば,子供,妻,そして自分の親とどう向き合っていくのかが問われているのだそうです.
そして,その人の価値観・人生観に寄り添って,それを実現するサポートをきちんとできる家が良い戸建である,という結論に至りました.
この理解をベースにして,お客様に本当に提供しなくてはならないものは戸建てそのものではなく,そのお客様に合った生涯生活スタイルなのだ,という認識を強めることになりました.
これらふたつの例から言えることは,
“顧客に何を提供しているか”
に答えることは
“顧客は誰か”
と同様に,容易ではないという点です.
目に見える商品・サービスを超えた先に何があるのか,それを再度考えてみることが大切だと思います.
■“品”は“しな”ではなく,品格の“品”!
多くの方が品質管理の“品”という漢字を品物の“品(しな)”と解釈し,品質管理は工業製品のような目に見える物的なモノだけを扱っている学問であると誤解していることが少なくありません.
しかしながら,この“品”は品格の“品(ひん)”であって,決して“品(しな)”を意味しているわけではありません.
上記でスターバックやハウスメーカーの例を説明しましたが,いずれも顧客に提供しているのは“ひとりでホッとできる空間”,“お客様に合った生涯生活スタイル”であり,工業製品のような物的なモノに限った話ではないのです.
■提供しているのは,顧客価値
以上から,顧客に何を提供しているのかを明らかにする際には,物的なモノに限らず,それを超えた先にある何かをきちんと認識する必要があると言いたいわけですが,それを考えるときに役立つ視点として,「顧客価値」を紹介したいと思います.
顧客価値とは,提供された商品・サービスを消費,使用する際にお客様が感じる効用,メリット,有効性のことです.
そして,市場に多くの類似商品・サービスが存在している場合には,その顧客価値を最も提供してくれそうな会社の商品・サービスを選ぶことになります.
10年連続で増収増益を続けているスターバックスはこの点が競合よりも優れているおかげで,顧客に選ばれ続けているわけです.
皆さんもご存知のように,スターバックスは日本においては1,000店舗を超え,どの都道府県にも最低1店舗以上はあります.
私もそのユーザの一人ですが,東京であっても他の地域の店舗であってもどこでも“ひとりでホッとできる空間”を安定して提供してくれていると感じられます.
これは逆に言えば,そのような顧客価値をお客様に確実に提供するために,店舗のデザイン,レイアウト,店員の対応などを““ひとりでホッとできる空間””を機軸として,丁寧にかつ一貫して設計されていると言えるでしょう.
ハウスメーカーも同様です.
“お客様に合った生涯生活スタイルの提供”という顧客価値に沿って,物的な商品である戸建て(レイアウト,内観,外観など)が設計されるべきだと考えられます.
つまり,顧客価値を提供するために,どのような商品・サービスが良いかを考える,この順序がとても大切なのです.
(金子雅明)