基礎から学ぶQMSの本質 第1回 品質と経営 (2016-1-26)
2016.01.26
本日から始まります「基礎から学ぶQMSの本質シリーズ」でまず話をしたいのは“品質”についてです。
日常生活や企業活動の様々な場面で“品質”という言葉が使われていますが,ひとによってその使い方や捉え方が大きく異なるように見えます。
本日から数回にわたり,品質管理の“品質”が何を意味するのか,どう捉えればよいかを改めてわかりやすく解説したいと思います。
あらゆる企業・組織は,その活動のアウトプットである商品・サービスを顧客に提供し,その対価として顧客からお金(売り上げ)をいただきます。
そして,その売り上げから商品・サービスの提供にかかったコストを差し引いた利益を,次につながる商品・サービスの提供のために投資を行う,という一連の活動を行っています。
経営の基本的な活動と言ってよいでしょう。
この経営の基本活動の中で注目すべきキーワードは,「企業・組織」,「顧客」,そして企業・組織と顧客の間で取引される「商品・サービス」です。
ただし,「企業・組織」は自社であり自明なことなので,品質の話をする際には残りの「顧客」と「商品・サービス」の2つを明確に認識する必要があります。
ISO9001や品質管理関連セミナー等でまず顧客が誰か,提供している商品・サービスは何かを明確にしなさいと良く言われるのは,実はこのためです。
誰に何を提供するのかを明らかにすることが重要だと言っているのですが,これが案外難しいものです。
この話題の詳細は別の回に譲りますが,乗用車の顧客(購入者,運転手,それとも乗っている人か)ギフト商品の顧客(送る側,送られる側?),大学という教育機関の顧客(決して学生ではありません)について考えてみても,そう簡単に自明な回答が出るわけではありません。
また,商品・サービスに関してもそうです。
スマートフォンや電化製品等は目に見えるモノであるため比較的理解しやすいですが,無形サービスになると何を提供しているのかを問われると,その回答により一層の困難が伴います。
品質に関する定義には色々とありますが,代表的なものを以下に示します。
①JIS Z 8101:1981(品質管理用語)の定義
「品物またはサービスが,使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」
②JIS Q 9000(品質マネジメントシステム-基本及び用語,2006)の定義
「(製品が)本来備わっている特性の集まりが,要求事項を満たす程度」
③品質経営入門(久米均,日科技連出版社,2005,p。15)の定義
「商品品質は,製品またはサービスの内容と顧客の要求あるいは期待との合致の程度」
いずれについても,先ほど上述した「顧客」と「商品・サービス」の2つのキーワードを含んだ定義になっています。また,これら定義の中からわかる大事なことは,
顧客の使用目的,要求(事項)や期待を,提供した商品・サービスがいかに満たしているか(合致しているか)どうか
という点です。これが,品質の最も本質的な意味を表していると思います。
この本質的な意味に基づけば,顧客が求めているモノを満たした商品・サービスが“品質が良い(高い)”となり,一方で満たなかった商品・サービスは“品質が悪い(低い)”ということになります。
このような品質の定義には,実はさらに別の深遠なる意味が隠されています。
それは,品質の良し悪しは外的基準で決まるということです。
商品・サービスを提供する側ではなく,その受け取り手側の判断基準によって決まるということです。
これは暗に,商品・サービスの提供にあたって行う必要のあるすべての企業活動は,外的基準をいかに満たせるかという目的のためになされるべきである,ということが示唆されています。
自分の都合のよい価値観でなく,目的に照らして自分の活動が妥当かどうか判断するという行動様式を推奨しているのです。
(金子雅明)