ISO9001改正のこころ 第9回 QMS設計・構築へのプロセスアプローチ(2015-12-07)
2015.12.08
これまで8回にわたってお送りしてきた「ISO9001改正のこころ」はあと2回で中締めにする.
その2回の担当は飯塚が務める.
平林,住本,村川の各氏は,かつてISO 9000ファミリー規格との関わりにおいて,国際会議で丁々発止の議論を交わし,あるいはそうした場での議論に付すための意見をまとめるなどしてきた.2015年改正においては,直接国際会議の場で意見を戦わすことはなかった.
だが,このメルマガを書き連ねるうちに熱い思いがほとばしり出てしまうのであろう,思わず含み笑いをしながら拝見してきた.
今度は,3年前まで日本代表を務め,2年前のポルト(ポルトガル)の会議を最後にTC176国際会議の第一線からは退き,ISO 9001改正審議の国内支援部隊として前線の様子を見守ってきた飯塚の番である.
できるだけ淡々と書きたい.さもないと,とんでもない長文,檄文になってしまいそうである.
今回は,<4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス>について語る.
この箇条4.4は,<0.3 プロセスアプローチ>に,「プロセスアプローチの採用に不可欠と考えられる特定の要求事項を4.4に規定している.」とある通り,ISO 9000ファミリー規格が2000年改正のときから採用している「プロセスアプローチ」に深く関わるので,15年の時を経てもなお,正しい理解が広まったとは必ずしも言えない「プロセスアプローチ」について再確認しておきたい.
■箇条4.4の要求事項
まずは,箇条4.4の要求事項を確認しておきたい.少し長くなるが以下に引用する.
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4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
4.4.1 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作
用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改
善しなければならない.
組織は,品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわた
る適用を決定しなければならない.また,次の事項を実施しなければならない.
a) これらのプロセスに必要なインプット,及びこれらのプロセスから期待されるア
ウトプットを明確にする.
b) これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする.
c) これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及
び方法(監視,測定及び関連するパフォーマンス指標を含む.)を決定し,適用
する.
d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし,及びそれが利用できることを確実に
する.
e) れらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる.
f) 6.1の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む.
g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にす
るために必要な変更を実施する.
h) これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する.
4.4.2 組織は,必要な程度まで,次の事項を行わなければならない.
a) プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する.
b) プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する.
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■要求事項の意図
箇条4.4の要求事項は,要するに,箇条4.1~4.3の検討の結果を踏まえた,QMSの確立,実施,維持,継続的改善である.
箇条4.4.1の最初の2つの要求事項に含まれる用語・句の意味は以下の通りである.
・必要なプロセス及びそれらの相互作用(interaction):QMSを構成する要素としてのプロセスと,それら要素間の関係(順序,入出力,管理など)
・確立(establish):
設計・構築し,運用できるようにする.主に,箇条5,6に従って,QMSを設計・構築する.
・実施(implement):
現実に機能させる.運用する.主に,箇条5,6及び箇条7,8,9に従って,QMSを運用する.
・維持(maintain):
目的を達成し続ける.継続に必要な処置をする.主に,箇条9,10に従って,QMSを機能させ続ける.
・継続的改善(continually improve):
繰り返し改善しつづける.主に,箇条10に従って,QMSを改善する.
・QMSに必要なプロセスを決定する(determine):
箇条4.1~4.3の検討により明確になった,構築すべきQMSを構成するプロセスを明らかにし確定する.
・それらの組織全体にわたる適用(application)を決定する(determine):
QMSを構成するプロセスを,組織のどの要素群が担うか明らかにし確定する.
a)~h)には,QMSとして具備すべき事項が掲げられている.
これらは基本的には2008年版と同じであるが,プロセスアプローチの適用を強化していると言える.
例えば,<a)インプット,アウトプット>,<c)判断基準及び方法>,<e)責任及び権限>,<f)リスク及び機会>,<g)変更>の追加記述がそうである.
箇条4.4.2は,QMSに関わる文書に関する要求である.
a)は,手順書類,QMS記述文書,b)は記録についての要求である.
2015年版では,「品質マニュアル」は直接的には要求していないが,a)項の要求の”必要な程度”の文書化がそれに相当すると言えるだろう.
■関連する箇条5.1及び6.1
箇条4.4の適用にあたり,関連に留意する必要のある他の箇条がある.それは,箇条5.1と箇条6.1である.
箇条4.1.1のf)に「6.1の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む」とある.6.1とは,<6. 計画>の<6.1 リスク及び機会への取組み>のことであり,箇条6.1.1に「QMSの計画を策定するとき,組織は,4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない.」とある.ここで次の事項とは,「a) QMSが意図した結果を達成できる確信」,「望ましい影響の増大」,「望ましくない影響の防止・低減」,「改善の達成」である.
リスクは,ISO 9001では「期待される結果に対する,不確かさの影響」と定義されている.
QMSの計画策定時に,様々な不確実性ゆえに,設計したQMSが期待した通りの結果を生まない可能性について検討する.
したがって,<f) リスク及び機会への取組み>とは,「4.1,4.2について,うまく対応できない可能性はあるか」,「その可能性は,どのようなメカニズムで起こるか」,「因果連鎖を断ち切る,又はより良い状況に誘導する方法はあるか」,「QMSの改善となるか」というようなことを検討することを意味している.
一方で,「機会」は不確実性とは関係ない.
「リスク」と対になっているので,不確実性の影響のうち好ましいものが「機会」と考えやすいがそうではない.
機会について考えるとは,「その状況は,どのような行動を起こす好機・好都合な場合となるか」について考えることである.
<5.1 リーダーシップ及びコミットメント>の<5.1.1 一般>に,トップマネジメントがQMSに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証すべき事項が列挙されているが,そのc)項に「組織の事業プロセスへのQMS要求事項の統合を確実にする.」
というのがある.
つまりは,QMSの設計・構築にあたって,QMS要求事項が事業プロセスに統合されるようにしなければならないと言っている.
事業の運営において,顧客満足を実現するためのシステムとしてのQMSなのだから当たり前のことである.
認証のためだけのQMS,事業と遊離した,日常の業務システムとは別物のQMSなどというバカげたことが起こらぬようなQMSの設計・構築をしたい.
■プロセスアプローチ
箇条4.1.1のa)~h)はプロセスアプローチの強化を促す要求事項であると上述した.ここで「プロセスアプローチ」の意味・意義を再確認しておきたい.
ISO 9000ファミリー規格は,QMSの構築,実施,改善において「プロセスアプローチ」の採用を推奨してきた.
この考え方は,ISO 9001の2000年版の序文で初めて記述され,多少の表現の変更はあるものの,2015年版の序文にも引き継がれている.
その中核なる考え方は,次の2つである.
・すべての活動は,インプットをアウトプットに変換するプロセスとみなせる.
・プロセスを明確にして,その相互関係を把握し,一連のプロセスをシステムとしてマネジメントすることが重要である.
箇条4.4は,このプロセスアプローチの適用をより具体的な形で要求するものと位置づけされる.
すなわち,QMSの確立・実施・維持・継続的改善と合わせて,QMSに必要なプロセスを明確にし,適用すること,さらには,
a)インプット及びアウトプット,
b)順序及び相互作用,
c)判断基準及び方法,
d)資源,
e)責任及び権限,
f)リスク及び機会,
g)監視・測定・評価・変更,
h)改善
を求めている.
プロセスアプローチの中核となる2つの考え方に対応して,プロセスアプローチを適用した具体的活動が以下のような要素から構成されていることが分かる.
①プロセスネットワーク
・QMSの目的(=顧客満足)に必要なプロセスの明確化
・それらのプロセス間の関係の明確化と運用
・プロセス間の関係のあり方の改善
②ユニットプロセス管理
・各プロセスの定義(当該プロセスに関連する要素の明確化)
インプット,アウトプット,活動(変換),資源,測定・管理など
・各プロセスの管理
プロセスを構成する要素の(PDCAの原則に従った)管理
・各プロセスの(機能の)改善
こうした考察から,ISO 9001のQMSモデルにプロセスアプローチを適用するためには,以下の3つのことを理解しておく必要があることが分かる.
a) QMSが複数のプロセスの連結からなるネットワークのようなもので構成されるという概念
b) 一つのプロセスの構成要素(インプット,アウトプット,活動,資源,測定・管理,責任・権限,リスク・機会など)とその関係
c) ISO 9001が提示するQMSモデルを構成するプロセスとその相互関係
箇条0.3にある図1はb)項の説明,図2はc)項の説明の例になっていることが分かるだろう.
ISO 9001適用組織においては,とくに自らの組織の事業環境・事業構造に相応しい,c)項に相当する全体像が重要であることを再認識してほしい.
少々長くなったが,これで箇条4.4の読解を終わる.次回は最終回として,ISO 9001改正の”こころ”をまとめる.題して「QMSの自律的設計・構築」.お楽しみに.
(飯塚悦功)