ISO9001改正のこころ 第4回 ISO 9001の戦略的活用(2015-11-2)
2015.11.02
ISO 9001改正のこころシリーズの第4回です。
第1回から第3回は、平林氏が担当していましたが、第4回から第6回は、本シリーズの第1回の冒頭で紹介された通り、超ISO企業研究会メンバーの住本が担当します。
グローバル化する経済の下で、組織が持続的に成功するためには、変化へ迅速に対応できる能力や特徴活か示せる能力を備え、価値提供における競合の場で、常に優位性を示し続けられる企業へ脱皮する必要があります。
筆者は、電気メーカに勤務し品質関連の業務を担当する傍ら、TC176メンバーとして2000年改訂の時から規格作成に深く関わってきました。
規格作成の現場における議論への参画を通して、感じた事や得られた知識を踏まえながら、組織が優位性を確立し、持続的成功を達成するためにISO 9001を戦略的に利用する際の心構えについて述べたいと思います。
ISO 9001は、“組織の思い”を埋め込む器
ISO 9001はマネジメントシステム規格である。
ISO 9000では、マネジメントシステムを、「方針及び目標,並びにその目標を達成するためのプロセスを確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織の一連の要素。」と定義している。
わかりやすく表現すると、目的を達成するために必要となる要素を備え、各要素及び要素間の相互関係を目的達成に向け最適化する仕組みということになる。
ISO 9001は、この仕組みを構築する際に備えるべき主要要素及び要素間の相互関係などに関する基本事項を規定している。
国際標準としてのISO 9001規格は、
<1>組織の特徴を活かし、持てる能力を最大限に発揮するための仕組み構築の基本仕様として、及び、
<2>客観的評価のための共通の基準を提供し、組織の説明責任を果たすツールとしての、2種類の利用を想定している。
これ以降の話は、グローバル化する経済の下で、組織が持続的に成功するために必要な能力を備えた、真の優良企業への第一歩を踏み出すため、前者、組織の特徴を活かし、持てる能力を最大限発揮するための仕組み構築の基本仕様として、ISO 9001利用する場合に焦点を当てて話を進める。
マネジメントシステムとは、目的を達成するために必要となる要素を備え、各々の要素間の相互関係を目的達成に向け最適化する仕組みである。
品質に関連する目的を達成するためのマネジメントシステムがQMSで、システムの前提として達成する目的が存在する。
ここでいうシステムの目的こそが、“組織の思い”であり、社会及び市場に継続的に受け入れられる品質を備えた価値提供をし続けるための戦略の実施につながる。
事業の成功とQMS
組織が事業で成功するために最も重要なことは、組織が提供する価値がより多くの顧客に受け入れられことである。
提供する価値がより多くの顧客に行け入れられることにより利益を獲得し、組織が持続的に事業を継続するための基盤が堅固なものになる。
ISO 9001:2015年版は、グローバル化する経済の下で、組織が持続的に成功するための戦略的アプローチとして利用されることを強く意識して開発されている。
ISO 9001:2008の利用状況を見ると、表面的な要求事項を満足することにのみに集中して構築されたQMSが散見される。
ISO 9001は、マネジメントシステム規格であり、組織の目的達成のために戦略的に利用してこそ、その真価を発揮する。
戦略的に利用するためには、規格の意図を理解し、組織の目的をQMSに明確に反映する必要がある。組織は、戦略的にISO 9001を適用しQMSを構築することで、その特徴を活かし、持てる能力を最大限に発揮し、より多くの顧客に受け入れる価値を創造し続けることが可能になる。
ISO 9001:2015年版の箇条4の意味
ISO 9001:2015年版の箇条1、適用範囲は、ISO 9001:2008年版とほぼ同じであるが、規格がカバーする領域は異なっている。
その違いは、ISO 9001:2015の箇条4にある。ISO 9001:2008では、QMSの計画について、5.4.1で品質目標の設定を、5.4.2で品質目標を満たす及びQMSのプロセスに関する一般要求事項を満足するための計画策定について規定しているが、組織が設定する品質目標の妥当性及び組織固有の状況から求められるQMSが持つべき特性については、組織が独自で決めておくべきものと仮定し、特に言及していない。
このため組織の実情が考慮されていないQMS、すなわちシステムとしての形は整っているが、持続的な事業の成功に必要な能力の獲得や抱える課題の解消につながらないQMSが散見されることとなり、アウトプットマターが大きくクローズアップされる原因となった。
箇条4 組織の状況は、4.1組織及びその状況の理解、4.2利害関係者のニーズ及び期待の理解、4.3品質マネジメントシステムの適用範囲の決定、及び4.4品質マネジメントシステム及びそのプロセスを規定している。
4.1から4.3の条項は、組織を取り巻く事業環境を考慮し、組織の特徴を活かし、持てる能力を発揮し、また必要となる新たな能力を獲得するための戦略、すなわち“組織の思い”の統合について規定している。
箇条4の追加により、QMSの構築に関する要求事項を規定しているISO:2008年版の箇条4.1 一般要求事項の前に、QMSの基本仕様に“組織の思い”を反映するための要求事項が追加されたことになる。
組織及びその状況の理解 -“組織の思い”と状況のギャップを明らかにする
組織は、取り入れた資源を加工し新たな価値を生み出し、それを外部に提供し事業を展開している。
価値創造の過程全体を通して見ると、組織を取り巻く事業環境は大きく分けて以下の三つに分類される。
(1)部品材料及び経営資源の入手に関する状況
(2)組織の価値創造の状況
(3)提供する価値を受け入れる市場の状況
ISO 9001:2015版では、これらの状況を組織内部及び組織外部に分け、各々で取り組むべき課題を明確にするというアプローチを取っている。
取り組むべき課題とは、組織外部に起因する、或いは内部に起因するにかかわらず、組織がQMSに反映するなどの対応をとる必要がある課題を指している。
例えば、部品材料の入手に関連する状況の変化、資源の枯渇問題や価格の高騰などは、購買管理に関連する課題の要因であり、提供する価値を受け入れる市場の状況の変化、人口動態や気候変動、経済状況の悪化などは、製品仕様や販売戦略に関する課題となりうる要因である。
また、組織の価値創造の状況、能力不足や設備の老朽化及び人手不足などは、組織の内部に起因する課題であると同時に市場における組織のパフォーマンスに関連する課題の原因となりうる要因である。
組織の状況を分析する際に考慮すべき要因の例:
価値創造に影響する要因
●原材料や部品の入手に関する状況
●技術動向
●パートナーとの関係
●組織能力の状況
●保有する資源の状況、など
市場に関連する要因
●競合他社の状況
●市場の状況
●代替製品の状況、など
価値創造や市場の状況に影響を与える要因
●経済環境
●社会環境
●規制要求事項の動向
●消費者の意識、など
組織の状況をどの程度の深さで分析すべきかは、組織がおかれた状況によって大きく異なる。
例えば、市場における製品の占有率や製品の普及率などは、どの程度の深さを決める際に考慮すべき事項の一つである。
成長期にある製品を提供している組織は、市場の成長に合わせた組織の在り方を意識した上で、状況分析を行う必要がある。
また、成熟期にある製品を提供している組織は、競合との競争関係や新たな事業の種としての技術動向などを強く意思した分析が必要になる。
(第5回に続く)
(住本 守)