ISO9001改正のこころ 第2回 目的志向で考えるQMS (2015-10-19)
2015.10.21
QMS構築は目的志向で考えるべきである。規格が「~するため」と記述しているところは目的については述べており、要求事項の一部であると認識すべきである。
2.1 要求事項(shall)の読み方
ISO9001:2015箇条4.1「組織及びその状況の理解」には次の要求がある。
「組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない。」
この要求事項の読み方は、いままでと変えなければならない。今までは、この一文における要求事項は、文の最後にある「外部及び内部の課題を明確にしなければならない。」であると理解され、「外部及び内部の課題」を明確にすることであると考えられていた。
しかし、文中にある「組織の目的」、「戦略的な方向性」、「品質マネジメントシステムの意図した結果」、「組織の能力」などは構築する組織において適切に特定され規定されているべきで、そうでなければ、「外部及び内部の課題」の明確化は、結果として組織の現状に合わない形式的なものになってしまう。
例えば、今までの読み方だと「品質マネジメントシステムの意図する結果」はあまり重要視されてこなかった。認証審査でも、審査の焦点は「外部及び内部の課題」の決定にあり、「品質マネジメントシステムの意図した結果」は審査対象にはなっていなかった。
2015年改正における「組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,・・・」の部分は、規格要求事項であると受け止めるべきである。従来もそのような考え方で規格を読んでいたはずであるが、2015改正を経てそのことが一層明確になった。
2.2 “~しなければならない”(shall)は要求事項を示し・・・
ISO9001:2015の0.1序文では「“~しなければならない”(shall)は要求事項を示し、・・・」と、要求事項について説明している。shallに続く動詞が要求事項であることはマネジメントシステム規格を読むときの常識であったが、この説明は今までのISO9001規格の記述には無かったものである。なぜ、今更このような常識的なことを貴重なスペースを使って説明しているのであろうか?
箇条4.1の原文を見てみよう。
“The organization shall determine external and internal issues that are relevant to its purpose and its strategic direction and that affect its ability to achieve the intended result(s) of its quality management system.”
英語構文上、要求事項を示すshallはその後ろの動詞以降すべてに掛かっている。determineという動詞の後ろにissuesという目的語があるが、その後ろには英語に独特な関係代名詞thatがある。このissuesを形容しているthat以下の記述を適切に把握し、記述されている内容を適切に理解し、そのことを実現する意思で「決定する」ことを実行しなければ、決して“~しなければならない”ことの目的は果たせないであろう。
そのことは、箇条4.1を例に取って説明すると、更に明確に説明できる。箇条4.1に出てくる4つのキーワード、「組織の目的」、「戦略的な方向性」、「品質マネジメントシステムの意図した結果」、「組織の能力」は、以降のいろいろな箇条に出てきて要求事項の一部を構成している。
2.3 具体的な例で説明しようー「組織の目的」、「戦略的な方向性」
「組織の目的」、「戦略的な方向性」は、箇条5.1.1「方針の策定」に次のような文脈の中で出てくる。
“5.2 方針
5.2.1 品質方針の策定
トップマネジメントは,次の事項を満たす品質方針を確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a) 組織の目的及び状況に対して適切であり,組織の戦略的な方向性を支援する。
一般に、法的に登記された組織の定款には「組織の目的」が決められている。電機会社なら「電気機械を製造して販売すること」であろうし、建設会社では「建築物または土木工事を施工する」であろう。故ドラッカーは、組織の目的は「顧客を創造すること」であるとしている。このように、組織の目的についてはいろいろな考え方があるわけであり、当然組織によって考えが異なってよいもので、組織自身が決めるものである。しかし、はっきりさせておかなければならないことは、「組織の目的」は明示的にしておかなければならないということである。
箇条4.1で規定されている組織の目的、及び戦略的な方向性を明確にし、それらを文書などに残しておかないと、品質方針策定においてこの箇条5.2.1が求めている品質方針が適切に確立されないことになる。今までだと、「組織の目的」とか「戦略的な方向性」について、構築する組織は、何が「組織の目的」であるのか、何が「戦略的な方向性」なのかを吟味せず、即ち深く考えずに取りあえず要求されているから無難なものでもよいからと考え、品質方針を策定していたのではないだろうか。それだと今の組織の状況下で力を入れなければならないことが明確にならず、現在の組織に最も重要な戦略的な方向性から離れた品質方針になってしまう。
2.4 「品質マネジメントシステムの意図した結果」
「品質マネジメントシステムの意図した結果」は、箇条4.1以降、箇条4.4.1、箇条5.1.1、箇条6.1.1に、それぞれ次のような文脈で出てくる。
“4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
4.4.1 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない。
(中略)
g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。”
“5 リーダーシップ
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
5.1.1 一般
トップマネジメントは,次に示す事項によって,品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
(中略)
g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする。”
“6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。”
これら3つの箇条に出てくる「意図する結果」の表現は少しずつ異なるが、意図する心は同じである。この国際規格の要求事項を組織が確立して、運用し、維持し、継続的に改善することによって、組織はいったい何を実現したいのかを「意図する結果」という用語で表している。「意図する結果」という用語を明確にすることは極めて重要である。箇条4.1に「品質マネジメントシステムの意図する結果」という用語が初めて出てくるが、それ(意図する結果)を決定しなければならないとか、文書にしておかなければならないとかの明示的な表現にはなっていない。しかし、これまで述べてきたように「品質マネジメントシステムの意図する結果」は要求事項の一部であると認識し、QMSによって組織は何を得ようとするのかを決定し、文書にしておくことがQMSを有効なものにする秘訣である。
特に箇条5.1.1「g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする。」はトップマネジメントに要求していることであるが、意図する結果が計画段階で文書になっていないと、トップマネジメントが本当に意図する結果を達成したか、或いはどの程度達成したのかを把握することができない。類似なことは、箇条4.4「g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。」についてもいえる。ここでの要求は「プロセスの意図した結果」を達成することであるが、何がプロセスの意図した結果であるかが計画段階で明確になっていなければならない。そして、それらプロセスの意図した結果の集合は、最終的に品質マネジメントシステムの意図した結果に繋がらなければならない。
(第3回につづく)