概念編 第19回 ホンモノ志向の真・品質経営の実践(2015-10-05)
2015.10.05
さて、前回まで、序論3回、概念編18回を費やして、「ホンモノ志向の品質経営シリーズ」の「テーマ1:成熟経済社会の真・品質経営モデル」について語ってきました。
これで、概略の説明はできましだので、このあたりで今回と次回の2回で、文字通りの「中締め」にしたいと思います。
■バブル経済崩壊のはざまで
そもそも、このテーマの主題である「ホンモノ志向の品質経営」、「成熟経済社会の真・品質経営モデル」というようなことを考え、提案することになる契機は、いまから20年余り前になります。
そうです。
それは1991年から1993年のバブル経済崩壊期のことです。
1960年ごろ、いやもう少し早い時期からとする見方では1955年から始まる高度経済成長は1980年代半ばまでこと経済成長率においては順調に推移しました。
もちろんその過程では、貿易自由化、資本自由化、オイルショック(原油価格の高騰)、ニクソンショック(円ドル為替レートの変更)など、幾多の試練がありましたが、何とか切り抜けて来ました。
それが1980年代半ば以降の数年に、土地バブル、株高騰など、実体経済とかけ離れた好況感が生じ、それがバルブ崩壊を生みました。
株や不動産価格の暴落など、一気に景気が冷え込み、その後失われた10年、さらには失われた20年などと言われました。
しかし、そのような環境になっても、強い会社、儲かっている会社、成功している会社はいくつもありました。
IT関連企業が多かったのですが、新たなサービス、ダントツ技術を基盤とするものづくり企業もありました。
私は、20社ほどの会社について自分なりに分析をしてみました。
そして成功する組織に、ある一定の共通点があることに気づきました。
強い「製品競争力」です。
でも、そんなことを言ったところであまり意味はありません。
顧客に提供する価値、提供し対価を得るもと、組織のアウトプットである製品が競合にひけをとらないということで、強い「売り物」があるということなのですから、成功の理由として当然すぎます。
■事業収益性(儲けの源泉)は何か
問題は、その競争力のある製品・サービスを提供するために、それら成功している組織に共通することは何かという点です。
いろいろな見方ができますが、抽出できたのは三点でした。
第一は「周囲・環境に対する鋭敏な感覚」です。
その一つは、顧客ニーズに対する鋭い感受性です。
お客様からニーズを聞き出す能力ではありません。
顧客の声なき声や行動、社会の動向の観察から、顧客ニーズ・市場ニーズの発見・把握能力、ニーズの変化を見抜く能力です。
また、社会のニーズ・価値観の変化の経営への影響の理解と感受性という意味もあります。
制度が変わると、どのようなニーズが生じ、どのようなビジネスモデルの変化があるかというような経営環境の変化への鋭敏なセンスです。
第二は「コアコンピタンスの自覚」です。
ここでのコアコンピタンスとは、競争環境において勝負を決定づける中核能力、競争優位要因という意味です。
強さの根元となる能力を持っているという意味ではありません。
その事業領域で、何が競争優位要因になるかを認識し、その能力を確保し維持するために経営リソースを集中している、という意味です。
第三は「人材・人財」です。
経営の根幹は人ですから当たり前なのですが、成功する組織には必ず、然るべき「ひと」がいます。
リーダシップ、高い志気・モラール、高い能力を持ち、組織が価値観を共有しています。
こうした組織運営を可能とする、組織文化・風土、経営者の価値観に見るべきものがあります。
私は、この分析を通じて、成功する組織に共通の第二の特徴に関心を寄せました。
その伏線は、奇しくもバブル経済に入る少し前、本格的な成熟経済社会期に入るころの1980年代半ばにあります。
そのころアメリカ流経営戦略のコンサルタントと議論する機会があり、「事業収益性(business economics)」という言葉を知りました。
恥ずかしながら、私は知りませんでした。
「儲けの源泉」、「利益を左右する能力」、「競争優位要因」という意味だと教えられたのです。
どのような事業にも、その事業構造に応じて、勝負を決める能力・特徴があるというのです。
このとき、「例えば、こんな事業では何だと思う?」と試験されました。
一つは、マンション建築・販売、もう一つはアパレル産業でした。
私が、車・電気・機械などの分野の品質管理に強いことを知って、わざと外しているのです。
皆さんはお分かりになりますか。
私は1勝1敗でした。
■品質経営の視点で事業を見直す
このような背景があって、バブル経済崩壊後、成熟経済社会のまっただ中、それゆえに変化の時代に、どのような経営をすべきかについて考察をしていました。
私は品質の専門家であって、いわゆる経営の専門家ではありません。
当然のことながら、「品質経営」の視点から事業をとらえ直してみることになります。
最初は、改めて、経営と品質の関係、利益と品質の関係について考察しました。
すでに述べていますので詳細に繰り返すことはしませんが、要は、以下のようなことです。
・組織設立の目的は、製品・サービスを通した顧客価値提供にある。
・品質とは、製品・サービスを通して提供された価値に対する顧客の評価である。
・そうであるなら、経営の目的は、品質の良い製品・サービスの提供になる。
・ところが、多くの経営者は、経営の目的は利益であるとおっしゃる。
それに対しては、利益は、品質経営の良さの優れた総合指標であり、また顧客価値提供の再生産サイクルの原資と考えるべき、と応えればよい。
さて、品質=製品・サービスを通して顧客に提供する価値に対する顧客の評価、ということを核にして、優れた事業を進めるための要件のようなことを考えてみると、おおよそ以下のように整理できそうです。
・事業構造の理解
・顧客・市場:顧客は誰か、市場はどこにあるか
・価値:(製品・サービスを通して)どのような価値を提供するか
・競合:競合は誰か、戦いの場はどこか
・競争優位:(自社の特徴を生かせる)どのような能力が競争を制するか
・事業成立性:経済的に成立するか、良い位置にいるか、いつまで安泰か
・事業運営体制の整備
・製品:製品・サービスの妥当性検討・再定義
・システム:能力発揮のための組織・プロセス・リソースの再構築
・運営:リーダシップ、コミュニケーション、舞台づくり
・事業環境変化への対応
・環境変化:環境変化の把握、洞察(変化の意味の理解)
・持つべき能力の変化:環境変化による競争優位要因の変化の認識
・革新:的確な戦略、実行指示・支援
これまで縷々述べてきましたので、これらが何のことを言っているのかは、大凡お分かりいただけるものと思います。
さて、次回は、品質管理の再認識について語って、このテーマを終了したいと思います。
ご承知のように、品質管理は、戦後アメリカから学んだ管理技術で、最初は主に製造工程の管理に使われました。
それが、わが国の経済発展と軌を一にするかのごとく、大きな発展を遂げ、いまではこのシリーズで論じているように、経営科学の中心的概念、方法論と位置づけできるほどになりました。
それはなぜか、それほどの実力があるのか、時代の経営ニーズに応えるために、品質経営はどうあらねばならないか、考えてみたいと思います。
(飯塚悦功)