概念編 第16回 変化への対応に必要な組織能力(2015-09-07)
2015.09.07
■競争優位要因は環境に依存する
前回、日本の経済力の栄枯盛衰を振り返り、それが高度成長期から成熟経済社会への変遷が遠因になっていることを説明しました。
そして、いかなる環境においても強くたくましく生きていくためには、環境の変化に応じて自身を適時適切に変化させていくこと重要であると申しました。
強さとか優秀さは評価基準に依存します。
だから、基準が変われば強さは変化します。環境が変わると、その環境で強くあるために必要な能力像、すなわち競争優位要因が変化します。
変化に応じて自らを適切に変えることができなかったこと、それが、経済大国日本、ジャパン・アズ・ナンバーワンが、かつての輝きを失いフツウの先進国になった理由です。
前回、変化への対応能力について、「第一に変化を知り、その意味を理解する能力、第二に自己の強み・弱み、特徴を認識する能力、第三に変化した暁に実現すべき自らのあるべき姿を自覚する能力、そして第四に自己を変革できる能力」と簡単に説明しました。
今回は、このことの意味をもっと詳細に考えてみたいと思います。
■環境変化の認識
その第一は、変化の様相とその意味を理解する能力、すなわち、事業環境の変化を知り、その変化が事業にどのような状況変化をもたらすかを理解する能力です。
組織を取り巻く環境の変化としては、直接的な環境としての、自組織の状況、適用技術、顧客・市場、競合、協力会社などの事業環境と、間接的な環境としての、政治情勢・政策、社会・経済情勢、国際情勢、基盤技術、人口動態、社会の価値観などが考えられます。
例えば、顧客・市場について言えば、製品・サービスに関する顧客のニーズの変化、使用・環境条件の変化、顧客の製品・サービス知識や購買決定行動の変化などです。
技術についても要素技術開発の進展・動向、他の具現化技術の開発状況や適用の動向などがあり得ます。
競合他社の動向も気になります。
戦略に変化があるかもしれません。
合併や提携があり得るかもしれません。
あるいは、他業種や海外・他の地域からの参入の可能性もあります。
供給者やパートナーについても、自社との取引の割合や方法に変化があるかもしれません。
サプライチェーンの上流に合併や再編が起こるかもしれません。
供給者と競合他社との連携・提携の状況に変化があるかもしれません。
あるいは、供給者の業界の競争構造に変化があるかもしれません。
気づくのが遅れるのは、案外、自社の状況かもしれません。
これまで特徴と思ってきたこと、強みと考えていたことに変化はないのでしょうか。
わが社の文化や価値観に変化はないでしょうか。
何よりも、わが社の技術・ノウハウの斯界での相対的地位は低下していることはないのでしょうか。
新たに必要となった分野の技術の蓄積は進んでいるのでしょうか。
商品企画力、設計・開発力、生産力、組織マネジメント力などの経営機能、QCDSEなど経営要素に関わる能力にどのような変化が起きているのでしょうか。
■自社の事業シナリオへの影響の理解
変化の様相を知るだけでは、環境変化を的確に認識したとは言えません。
その変化が、自社の事業にどのような意味を持つのか理解しなければなりません。
すなわち、現在の自社の事業シナリオにどのような影響を与えるか理解しなければなりません。
顧客価値を起点に事業を考えようという、このシリーズの考察方法に従えば、環境変化が、提供している顧客価値に変化を与えるのか、競争環境における価値提供において武器にしてきた能力・特徴に影響を与えるものなのかどうか、分析する必要があります。
例えば、主に贈答用や接待用に使われることを意図して企画してきた高級輸入アルコール飲料が贈り主や接待側に提供してきた価値は、関税の税率低下によってどのような変化をもたらすのでしょうか。
高級感、希少価値観、高品位感という価値は、大きく変わるのでしょうか。
そのような価値が安価に獲得できるようになるので、価値は増すのでしょうか。
価格が下がることによって、その価値そのものが下がることになるのでしょうか。
これまでの価値を評価していた顧客層は減少するのでしょうか、それとも増加するのでしょうか。
能力について考えるとき、これまでの価値提供競争における競争優位要因は変わるのでしょうか。
高級ブランドという競争優位要因、限定された販売数量という競争優位要因は、将来も通用するのでしょうか。
低下させるものなのでしょうか。それとも増強させるものなのでしょうか。
特徴についても同様の考察が必要です。
これまで特徴としてきたことを大きく変質させるものなのでしょうか。
自社の特徴に対する希少性を低下させるものなのでしょうか。
それとも、向上させることになるのでしょうか。
近年のゴルフクラブやボールの技術の進歩には目覚ましいものがあります。
飛ばないけれど、グリーン回りからの巧みな寄せやパットで、飛ばし屋に対抗してきた老獪なアベレージゴルファーは、飛んで曲がらないクラブやボールを使うことで、ますます楽しみが増えるのでしょうか。
距離の非力さを補うグリーン回りのテクニックの貢献の度合いは、果たしてどのように変わるのでしょうか。
■変化した暁に持つべき能力を自覚する
変化への対応能力の第二に、自身の強み弱み・特徴を知ることを挙げました。
それは、第三に挙げた、変化した暁に持つべき能力を的確なものにするためです。
ある競争環境において有すべき能力が分かったとしても、自分には獲得することの絶対に敵わないものであるなら、意味がありません。
ゴルフにおいて、遠くへ正確に飛ばせれば強くなれることは分かっています。
でも非力であって飛ばないという“特徴”を持ってしまったら、それなりの努力はしますが、他の能力で勝負することを考えるべきです。
長くなりましたので、途中ですがこの辺にします。次回は、変化した暁に持つべき能力を自覚し、自分を変えること、変えた自分が日常的にその能力を発揮できるようにすることなどについて、検討を続けます。
(飯塚悦功)