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メルマガ① 真・品質経営

概念編 第15回 変化への対応(2015-08-31)

2015.08.31

 

 

これまで14回にわたって、「顧客価値」、「組織能力・特徴」、「事業シナリオ」、「システム化」について説明してきました。

今回からは「変化への対応」について考察します。

 

なぜなら、これまで説明した方法によって、提供すべき価値、そのために必要となる能力・特徴を明らかにし、それらをマネジメントシステムに実装できたとしても、事業環境や事業構造が変化してしまえば、提供すべき価値、有すべき能力が、その変化に応じて変わる可能性があり、これに対応するためです。

 

「変化」について考えるとき最も重要なこと、それは、収益構造、生産・消費関係、競合構造など、事業を取り巻く経済・産業構造が変化すると、競争優位要因(競争優位に必要な能力や側面)がどう変わるかを明確に認識することです。

 

 

 

■日本の経済力の栄枯盛衰

 

日本はかつて「品質立国日本」と言われたことがあります。

ひとつの象徴的な出来事は、1980年、米国の3大テレビネットワークの一つNBCで“If Japan can…, why can’t we?”という番組が放映されたことです。

番組の主題は、工業製品において世界に冠たる品質を誇り奇跡的な経済発展を遂げた日本の成功の理由を分析し、「日本にできてなぜ米国にできないのか」と訴えるものでした。

 

一つの歴史的事実として、日本は1980年代に、品質立国日本、ものづくり大国日本、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどともてはやされ、品質を武器に工業製品の競争力を確保して世界の経済大国にのし上がったのです。

まず手始めに1970年代に、鉄鋼において大型の高炉とコンピューター制御を武器に米国の鉄鋼産業に致命的な打撃を与えました。

そして、低燃費、高信頼性、高品位によって米国の自動車産業に旋風を巻き起こします。

さらには、家電製品、半導体でも、圧倒的な高品質、高信頼性、合理的な価格によって、世界の市場を席巻しました。

 

ついには、日米経済戦争などといわれる経済摩擦を起こすに至ります。

 

 

ところが、1990年代半ば以降、「品質立国日本」の相対的地位は落ちました。

 

日本はかつて一人当たりGDPで世界2位だったことがあります。

OECDのAnnual National Accounts Databaseによれば、1980年の17位から順調に順位を上げ1989年には3位に位置づけされ、1990年代は2~5位程度で推移しました。

しかし21世紀を迎え、下降の一途をたどります。2000年3位、2005年15位、2008年19位、2010年14位、2014年27位です。

 

 

スイスのシンクタンクIMDの世界競争力ランキングの推移はもっと劇的です。

 

このランキングは世界の主要約50ヵ国について国の総合的な競争力を測るものです。

1997年以降の日本は16~27位の間を推移しています。

この間、同率首位も含め1位はずっとアメリカです。

1996年以前の日本の順位は4位以内で、1988~92年は1位にランクされていました。

この時期がピタリとバブル経済期に合致することもあって、いかにも泡沫バブルの1位で実質を伴っていないと見ることもできます。

しかし、少なくともある時期にある尺度で1位にランク付けされたことだけは事実なのです。その日本は、いま世界で20~30位くらいの国なのです。

 

 

 

■成熟経済社会への移行がもたらしたもの

 

日本のものづくり競争力が低下した理由として、中国やインドなどアジアの台頭に対して、工夫の余地のない人件費格差を指摘する方が多くいました。

しかし、ジャパン・アズ・ナンバーワンと煽てられたころから日本の人件費は高いレベルにありました。

日本の地位低下の原因はそんなところにあるのではなく、社会、経済、産業の構造変化に伴う競争優位要因の変化に、日本の社会・経済の構造、さらには各企業の経営スタイルが十分に対応できていないことによるものと考えられます。

バブル経済によって認識が遅れましたが、日本の経済・社会は、1980年代半ばには、成熟経済社会期に移行していたのです。

こうした変化は、事業における経済構造と競争優位要因の変化を引き起こします。

 

競争優位要因とは、事業において競争優位に立つために必要な能力・側面であり、事業環境が変化すれば、当然のことながら変化します。

経済、産業の構造の変化とは、事業の構造、役割分担、競合構造の変化であり、例えば生産基地のシフト、生産-消費地関係の変化、生産委託の状況の変化、コスト構造の変化、新たな競合の登場などです。

 

競争優位要因、あるいは「強さ」というものは、環境やルールによって変わるということを忘れてはなりません。

スポーツで考えると分かりやすいかもしれません。

 

スキーのジャンプ競技で、身長と体重からスキーの長さを割り出す式を変えることによって、身体の小さな日本勢の地位を上げることも下げることもできるのです。

サッカーのゴールの高さを30cm、横幅を1m広げたら、どのような能力・特徴を有する選手がトッププレーヤーと呼ばれるようになるのでしょうか。

縦や横に大きく変化するロングシュートの名手が一流になるかもしれません。第二ゴールキーパーというようなポジションができるかもしれません。

 

 

 

■変化に必要な能力

 

成熟経済社会は変化が速い、と言えます。

量的な変化は小さいのですが、質的な変化は速くて大きいです。

「成熟」という表現から「保守性」を連想しがちですが、成熟経済社会は、保守的な人・組織には生きにくい環境なのです。

変化の時代を生き抜くためには、変化に迅速・的確に対応していかなければならなりません。

 

変化の時代に必要な能力、それは第一に変化を知り、その意味を理解する能力第二に自己の強み・弱み、特徴を認識する能力第三に変化した暁に実現すべき自らのあるべき姿を自覚する能力、そして第四に自己を変革できる能力と言えるでしょう。すなわち、事業において何を変えなければならないかを正しく認識して対応するためには、事業環境の変化を知り、その変化が事業にどのような状況変化をもたらすかを理解し、一方で自己の特徴を再認識しつつ、自らが有すべき新たな時代に必要な組織能力像を明確にし、現実に自身を変えることが必要なのです。

 

社会経済構造が変化し、したがって競争優位要因が変化してしまったこの成熟経済社会において、経営において持続的な成功を収めるために、どう考えどう振る舞えばよいのでしょうか。

原点に返って再考し、この成熟経済社会期という変化の時代に自らの思考の枠組みを再構築することが必要です。

 

まずは,時代が変化したことを明確に意識しなければなりません。

そして、かつて成功した時代のビジネスモデルが成立しにくいことを理解し、新たな経営スタイルを確立しなければなりません。

そのための有益な視点として、このシリーズでは、「顧客価値提供」に焦点を当てた「持続的成功」というアプローチを提唱しているのです。

 

 

さて、あと2~3回ほど、変化への対応についてのお話しを続けます。

(飯塚悦功)

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