概念編 第14回 組織能力に基づくQMSの設計(2015-08-24)
2015.08.24
真・品質経営実践における第4の重要概念である「システム化」について,その意義と目的,及びシステム化をする手段であるQMSについて2回に渡って説明してきました.
今回はシステム化の最終号で,組織能力に基づいて如何にQMSを設計するか,言い換えれば,組織能力を効果的に発揮できるようなQMSにするためにはどうすればよいかについて述べたいと思います.
結論から先に言えば,そのためには3つのステップを踏む必要があります.以下でひとつずつ説明していきます.
■ステップ1:組織能力に関連するQMS要素の特定
QMSは組織能力を発揮する手段なのですから,その能力の発揮に関連するQMS要素はどれであるかを特定することが必要です.
これが第1ステップです.
QMS要素,すなわち,QMSがどのような要素から成り立っているかは前回のメルマガで既に概要を説明しました.
第1ステップが最も理解しづらいため,例を出します.
例えば,自動車向け成形部品を製造する会社A社では“成形しやすい金型設計力”が競争上重要な組織能力となっていました.
これを発揮するために関連しそうなQMS要素は何でしょうか?
ひとつには金型設計メーカB社との連携があります.成形製品の品質安定性は金型の出来栄えと成形条件のすり合わせでほぼ決まるのですが,一般的に金型設計メーカと成形会社は互いに情報交換をしたり,技術交流をすることは少ないようです.それを,A社はB社をビジネスにおける最重要パートナと認識して長期的にお付き合いしています.
違う会社ですが,立地場所も近く,あたかも一つの会社であるように動いているように見えるくらい,両社の信頼関係は確固たるものになっています.
これは前回のメルマガで言えば,サポートプロセス内の“パートナ”に相当しますね.
また,金型の設計においては,類似金型を用いた成形品の過去トラをA社は有していますので,それをB社と共有して類似の過去トラの未然防止に役立てています.
これは,A社にとってはサポートプロセスの“知的資源”に当たるでしょう.
さらに,金型の設計レビューにおいても,B社の金型設計者とA社の営業担当者・成形条件設定者が一緒に検討する体制を構築しています.
設計レビューは主に図面上と実物の2段階で実施されています.
B社は金型設計メーカであるため,成形機は有していません.
したがって,A社の成形機を借りていくつかの有力な設計案をもとに成形して,その結果を用いて評価します.
B社にとっては,これは実物に基づいた金型設計レビューになるのですが,同時にA社では良品を成形するための量産条件出しをするための評価実験としても活用しています.
つまり,B社との良好な信頼関係を基盤にして,B社における(金型の)設計開発と,A社における(成形条件)の設計開発を同時に実施できるような設計開発体制を構築しているのです.
これは,まさに製品実現プロセス内の“設計・開発”に当たります.
■ステップ2:現行QMSとのギャップ分析
次は,このように特定した各QMS要素に関して,自社の現行QMSは本当に組織能力を100%発揮できるような仕組みになっているかを検討し,そこに差異(ギャップ)があるかどうかを評価することです.
評価の視点には以下のようなものがあります.
・仕組み(手順を含めて)はあるのだろうか.あるのであれば,現在はどのような仕組みになっているのだろうか.
・仕組み通りに実施,運用されているのだろうか.一部未実施,誤実施のところはないだろうか.
・パフォーマンス(結果)は出ているのだろうか.出ていないのであれば,それはどうしてだろうか.
・パフォーマンスが出ていたとしても,発揮させたいと思っている組織能力に関連づいているのだろうか.組織能力を発揮するためには当該QMS要素ではそもそもどんなパフォーマンスを出すべきだろうか.
・パフォーマンスが出ていたとしても,今後も同様な結果が出せるという確証が持てるだろうか.
上記視点の一部はISO9001の内部監査等でも用いられることもあるため,少し馴染みがあるかと思います.
ひとつの組織能力の発揮のためには5つ以上のQMS要素が関係していることもあるため,そのすべてのQMS要素について上記に示したような視点から検討していきます.
■ステップ3:QMS再構築計画の策定
最後のステップは,ステップ2で明らかにした差異(ギャップ)に基づいて,そのギャップを埋めるための計画を立てることになります.
仕組みがないのであれば,一から構築する必要があるでしょう.
仕組み通りに運用されていないのであれば,人々への教育・訓練プロセスに問題があるかもしれません.または,その仕組みが十分に人間の弱さ,限界(ヒューマンファクター)を考慮したものになっていない可能性がありますので,それを解決しないといけないでしょう.
仕組みがあり,その通りに運用されているのに,パフォーマンスがまったく出ていないのであれば,仕組みの大幅な変更が必要になるでしょう.
もしパフォーマンスを評価する項目・指標が,発揮したい組織能力と関連づかないものであるのであれば,(これまでの延長線上の改善ではなく),ゼロベースでその仕組みを新規に再構築する必要があるかもしれません.
いずれにしても,ステップ3では,市場における競争優位を確立するために重要となる組織能力を確実に発揮し,より強化するためには,現行のQMSのどの要素をどのように変えていけばよいかを,QMS再構築計画としてまとめていくことになります.
本概念編第14回目をもって「システム化」の解説は終了です.
そして第15回目からは超ISO企業研究会会長の飯塚悦功先生にバトンタッチして,真・品質経営実践における最後の重要概念である「変化への対応」の解説に移りたいと思います.
(金子雅明)