超ISO企業研究会

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メルマガ① 真・品質経営

概念編 第7回 A社の競争優位要因を探る(2015-07-06)

2015.07.04

 

前回は組織能力には3種類あると説明しました.すなわち,

 

1. 事業においてビジネスを行う上で最低限必要な組織能力(群)

2. その事業において競争優位を獲得するために必要な組織能力(群)

3. その事業における“自社(あなたの会社)”の競争優位を獲得するために必要となる組織能力(群)

 

です.そして,1,2,3の組織能力の間には

 

3の組織能力=2の組織能力の一部 + 業界平均レベルに達していない1の組織能力

 

の関係があると解説しました.

 

 

今回は,以前にも少し説明しました看板サイン製作会社A社を例に挙げて,これらの1~3の組織能力を具体的に説明したいと思います.

ただし,皆さまにも紹介できる程度に内容を一部改編しておりますので,その点はご了承ください.

 

A社の主要製品は,コンビニや居酒屋(個人商店含む),スーパー等の物販業界や街中にあるビルに付いている看板・サインであり,これら看板・サインの設計,製作(製造),配送,設置まで一貫した機能を持った会社です.看板・サイン会社としてはどちらかというと後発組であり,関東地方周辺を商圏とした従業員20名弱程度の中小会社になります.

 

 

<1の組織能力>

 

上述したようにお客様は多種多様ですが,いずれについても

 

・お客様がどのような看板サインを求めているのかを明らかにする「営業力」

 

・明らかにしたお客様のニーズを満たすために,意匠性(見た目)だけに関わらず,耐久性,構造物としての安全性,設置容易性などを考慮した図面を決定する「設計力」

 

・様々な材質やサイズ,デザインを持った看板サインを確実に製作するために,カッティング,板金加工,溶接,印刷などを行う「製造力」

 

・製作した看板サインをお客様のところまで迅速かつ確実に運ぶ「搬送・物流力」

 

・看板サインの取り付け(壁吊り,吊り下げ,地面など)や電気関係の結線方法を考慮しながら,お客様がすぐに使える状態にするための「設置力」

 

・設置後に不具合が発生したら,迅速に取り換えや修理を行う「アフターサービス力」

 

の6つの組織能力が必要となります.

 

 

 

<2の組織能力>

 

まず,関東地方における業界トップのB社は創業100年以上の老舗企業であり,高品質な看板製作(もちろん,高価格です)に定評があり,営業対応も非常に丁寧で細かいところまで手が届く徹底ぶりがお客様に評価されています.

言い換えれば,これがB社の勝負の仕方だと言えます.

 

一方で,A社は10年前ぐらいから業績を徐々に成長させてきましたが,それでもB社と比べれば後発組であったこともあったため,B社と同様な勝負の仕方では勝てないと考え,どう差別化するかを考えました.

そこでA社では,価格や品質は中レベル程度であるが,お客様からの急な注文(例えば,台風で看板が壊れた,注文をし忘れていた,急に新たな店舗が開店することになったなど)に対してスピーディに対応すること(注文から2~3日で納入・設置するケースもある)を強みとし,これを起点にしてお客様に入り込んで通常の注文を頂けるようにしました.

 

また,ここ2,3年ぐらい前から,同等レベルの製品に対してA社の1/2の低価格で勝負に出ているC社さんも参入してきました.

この会社は,大きな工場を1か所に集中してそこで大量生産する体制を築くことによって規模のメリットを活かした勝負をかけてきています.

ただ,出来上がった看板サインの品質に大きなバラツキがあるという不満が顧客からたびたび聞こえてきているようです.

その他の看板サイン関連業者として,設計,製作,設置のどれかひとつの機能だけしか有していない零細企業が非常に多く点在していますが,これらの会社はA社の競合というよりは,協力会社・パートナーとしてA社は認識しています.

 

このように,勝負の仕方・勝ち方は各社で異なることがわかります.A社,B社,C社における重要な組織能力,すなわち競争優位要因をまとめてみますと,以下のようになります.

 

A社(10年前に本格参入)・・・緊急(飛び込み)注文へのスピーディな対応力

 

B社(業界リーダーで老舗企業)・・・意匠性の高い設計力,細かいことでも丁寧に対応できる営業能力

 

C社(新規参入会社)・・・規模のメリットを活かした生産力

 

 

 

<3の組織能力>

 

2で示した組織能力に示したA社の“緊急(飛び込み)注文へのスピーディな対応力”がまず③の組織能力として当てはまります.

 

 

また,「業界平均レベルに達していない①の組織能力」も当てはまると説明しました.

B社,C社はもちろんこと,A社と同規模で設計~設置・アフターサービス機能まで一貫して持っている競合と比べてA社の従業員数が比較的少ないことから,「営業力」が業界水準に至っておらず,新規顧客からの注文は現社長の人的ネットワークか,お客様どうしの自然発生的な口コミに大きく依存していることが挙げられました.

今後,年商を倍増するという事業目的を達成するためには,是非とも業界レベルまでには上げておかないといけない重要な経営課題と認識しています.

 

つまり,A社の競争優位要因をまとめますと,

 

A社の競争優位要因=“緊急(飛び込み)注文へのスピーディな対応力”+ “新規顧客開拓に必要な業界水準レベルの営業力”

 

となります.現在は「営業力」を業界水準レベルに上げる取り組みを行っている最中であり,そのための一つの活動として“町の看板のお医者さん”というホームページを立ち上げたり,地域の不動産屋さんと連携を取りながら有力な新規顧客情報を獲得する体制を整えようとしているところです.

 

 

 

 

今回で組織能力の解説は終了です.次回は,競争優位要因の源泉についてお話ししたいと思います.

(金子雅明)

 

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