概念編 第5回 組織能力をどのように捉えるか(2015-06-22)
2015.06.22
前号(https://www.tqm9000.com/?p=232)からの続きになります。
繰り返しになりますが,組織能力とは個々人が持っているモノではなく,会社組織全体として持っていて,新たに開発したり向上させたりすることができるモノ,と説明しました.
では,その組織能力をどのように捉えておけばよいのでしょうか.
ふたつの捉え方を説明したいと思います.
■ひとつ目の捉え方
ひとつ目は,良質な製品・サービスをお客様に提供するためには会社としてどのような機能(ファンクション)が必要か,という観点から捉えるもので,“品質保証機能”と言います.
本研究会会長飯塚悦功が執筆した「現代品質管理総論(朝倉書店)」によれば,品質保証機能は以下の5つに分類できる,としています.
(1) 計画プロセス:企画・開発・設計
(2) 実現プロセス:生産・サービス提供
(3) 検証プロセス:検査・監視
(4) 調達プロセス:購買・外注
(5) 販売プロセス:販売・付帯サービス
例えば,(1)はどのような製品・サービスをお客様に提供すればよいかを計画する機能で,商品企画機能と設計・開発機能があります.
あなたの会社の中で,これらの機能が有効に働くことによって組織としての能力,すなわち組織能力となりえます.
言い換えれば,顧客価値を提供するためには,上の(1)~(5)のどの品質保証機能においてどのようなことができていないといけないのかを考えることが,組織能力を上げることにつながります.
上の捉え方に従って,これから私が色々と妄想しながら例を挙げてみたいと思いますので,皆さんもあるひとつの顧客価値を頭の中に浮かべながら,どれが当てはまるかな?こうじゃないかな?などと,一緒に考えてみてください.
(1)の「企画」に関する組織能力はどうでしょうか?
・重要な顧客とコンタクトを取りたくても競合であれば数か月はかかってしまうところを,自社であればかなり簡単にコンタクトが取れる能力でしょうか.
・それとも,顧客ニーズの変化を素早く,的確に捉えることができる分析力かもしれません.
・または,お客様に聞いてもお客様自身が口に出してうまく説明できないような潜在的なニーズを発見できる能力が必要なのでしょうか.
(1)の「設計・開発」に関する組織能力はいかがでしょうか?
・“かっこいい”,“高級な”,“ドキドキするような”など,非常に曖昧で感性的な顧客ニーズを具体的な製品特性として確実に落とし込める力でしょうか.
・市場での様々な使われ方や使用条件を抜けなく考慮し,市場で起こりそうなトラブルをFMEAやFTA等の手法を用いて事前に予測して,それを未然防止するための対策を打てる能力でしょうか.
・それとも,製品の原価企画を設計段階から行うことで,妥当な製品コストを実現できる力でしょうか.
・生産部門や販売部門が早期のデザインレビューから参加していくようなコンカレント・エンジニアリングをやることによって,設計・開発プロジェクトを短期に完了できる能力でしょうか.
・製品の設計ではなくその製造工程を決める際に,過去の類似製品で起きた製造トラブルが出ないような安定したQC工程表を策定できる力でしょうか.
では,「生産・サービス提供」はどうでしょうか?
・かなり多くの生産設備を保有しているのでしたら,それら生産設備が故障せず常に正常に稼働するようにするための設備保全・メンテナンス力が必要でしょうか.
・段取り替えがミスなく素早くできる力でしょうか.
・それとも,工程内に何らかの異常が発生したら,それをすばやく発見して適切に対処する能力なのでしょうか.
・お客様先の急激な需要変動に対して,適切に対応できるような生産・在庫調整力でしょうか.
「検査」が大切な製品・サービス分野もありますが,いかがでしょうか.
・不良品は確実に不良と判定して後工程に絶対に流出させないような検査/評価技術を持っているのでしょうか.
・作業員による目視検査ではなく,自動検査装置などを使うことで,検査に必要な工数を低く抑えられる力でしょうか.
「購買」ではどうでしょうか?
・比較的安い価格で,妥当な品質の材料・部品を必要な量だけ調達できる能力でしょうか.
・それとも,水害等の自然災害や想定外の緊急事態が発生して自社のサプライチェーンが途中で切断されたとしても,早急にその代替案を探したり,復旧できるような能力が必要なのでしょうか.
・購買した材料・部品そのものの管理ではなく,それらを納めているサプライヤー側の工程管理に関して,サプライヤーと一体となった力強い改善活動ができる力でしょうか.
最後ですが,「販売・付帯サービス」もありますか?
・お客様から問い合わせ電話が来たら,その翌日にはお客様のところに伺ってサンプル品を持っていける素早い対応力でしょうか.
・お客様自身もどんなものが欲しいかわかっていない状況であっても,こんなものがほしいのですよね?と妥当な提案ができる力でしょうか?
・それとも,お客様が自社の製品を使いこなすために必要なトレーニングや情報提供をしてあげられる力でしょうか?
■ふたつ目の捉え方
別の捉え方として,
(1) 固有技術
(2) 管理技術
(3) 組織の人々の価値観,行動様式
という捉え方もあります.
これは,ある製品・サービス分野に固有の技術,すなわち「固有技術」と,その固有技術を活用して業務を実施し運営管理していく技術である「管理技術」の両者が揃って初めて,質の高い製品・サービスを提供できるという考え方に基づいています.
皆さんも一度はお聞きになったことがある言葉だと思います.
その考え方に対して,仮に固有技術と管理技術が揃ったとしてもそれを実施するヒトが,その業務の目的や重要性を理解し,そのように行動しようと思わなければ,業務を適切に実施できないわけですから,その理由から「組織の人々の価値観,行動様式」を加えています.
例えば,以下のように捉えることができます.
顧客価値提供にどのような「固有技術」が必要でしょうか?
・どんなモノでも,小型化できてしまう技術力が必要でしょうか.
・非常に硬く加工が難しい材料であっても,高い精度で加工できる力なのでしょうか.
・通常であれば,破壊をするかまたは数時間もかかってしまう検査であっても,破壊せずにものの数秒で検査できてしまう評価技術を持っているからでしょうか.
・成形のしやすさを考慮した金型を設計できる力なのでしょうか.
それとも,その固有技術を活用して業務を運営していく「管理技術」なのでしょうか?
・技術的に難しい仕事や作業をより容易にできるような工夫をする力でしょうか.
・作業員のヒューマン・エラーに注意深く配慮した作業環境にしている力でしょうか.
・需要が急増したり,仕事の負荷が非常に大きくなったときなど,いつもとは異なる状況下であっても,どうにか問題なく業務を実施できる力でしょうか.
・発生したトラブル事例を徹底的に分析し,当該業務の再発防止に留まらず,他の業務にも水平展開する能力でしょうか.
「ヒト」についてはどうでしょうか?
・現場一線で働いている作業員であっても,組織全体の風通しが良く,担当する仕事や作業の目的や重要性の理解が浸透させる力でしょうか.
・作業ミスを起こした当の本人を責めることはせず,作業標準のどこに問題があるかを考えることができるような力でしょうか.
・管理職を始めとして,現場スタッフによるQCサークルが精力的にかつ自主的に行われ,品質管理活動が組織として「全員参加」が実現できている力なのでしょうか.
さて,怒涛のように例を挙げていきましたが,皆さまはいくつの組織能力を挙げることができましたでしょうか?
通常,ひとつの顧客価値に対して,複数個(3~5個)程度の組織能力が挙がってくるはずです.
最後に重要なことが残っています.
それは,顧客価値提供に必要な組織能力が抜け漏れなく挙がっているかを確認することです.
また同時に,顧客価値提供に関係のない組織能力が挙がっていないかをチェックします.
つまり,以下の質問に答えることです.
Question:顧客価値提供に関係する組織能力だけを抜け・漏れなく挙げていますか?
この質問を皆様への宿題として出させていただき,今回は終わりにしたいと思います.
(金子 雅明)