概念編 第3回 顧客価値提供と品質経営(2015-06-08)
2015.06.08
顧客価値とは何であり,これを明確にすることにどのようなメリットがあるかについては,それぞれ概念編第1回,第2回でご理解頂けたかと思います.
今回は顧客価値の最終号で,品質管理,品質経営における顧客価値提供の位置づけについて説明したいと思います.
「品質管理」を初めて習った方は覚えているかと思いますが,品質の良し悪しを語るためには,顧客と製品・サービスの2つをまずは明確にしなければなりません.
顧客とは,もちろんあなたが顧客価値をお届けしたい方であり,あなたを選んでくれる選択権がある者です.
製品・サービスを受け取る方やお代を払う方が必ずしも顧客であるとは限りません.
例えばファミリー・カーは,支払いをして運転するのは夫ですが,どの車にするかについて強い力を持っているのはその配偶者であることが少なくありません.
また,子供たちは車による移動サービスを受けていますが,車の選択権はほぼないと考えてよいでしょう.
製品・サービスとは,あなたが作ってお客様に実際に提供している有形・無形のモノです.
そして,顧客価値を届ける手段でもあります.有形のモノであれば何が製品・サービスかは自明ですが,無形サービスの場合は少し迷うことがあります.
例えば,大学の製品・サービスは何であると思いますか?
講義でしょうか?
もし,講義だとすればその受け手である学生が顧客になってしまいます.
では,学生のニーズに応えて,単位が取りやすい講義内容にすればよいのでしょうか.
それは違います.
大学の顧客は学生ではなく,その学生が就職する会社,もっと広く言えば社会です.
そして大学の製品・サービスはまさにある種の能力を身に付けた学生そのものです.
つまり大学にとって最も重要な任務は,入学時の学生の能力を4年後に如何に高められるかであることになります.
顧客と製品・サービスを明らかにすれば,品質の良し悪しを語ることができます.
すなわち,品質とは顧客のニーズ・期待に対して製品・サービスが如何にそれに応えられたか(目的適合性とも言いますが)の程度を表しています.
うまく応えられれば「品質が高い(良い)」となり,応えられなければ「品質が低い(悪い)」ということになります.
大学の例でいえば,4年後に高めた学生の能力が如何に社会のニーズに応えられているか,が品質になります.
その代表的な指標としては大学就職率や企業からの推薦枠数がありますね.
さて,ここまでの話を踏まえて品質と顧客価値はどのような関係にあるでしょうか.
あなたが製品・サービスをお客様に届け,その届いた製品・サービスを使用することでお客様はある種の効用や便益を得ます.
その得られた効用や便益をお客様が十分に高い評価をしてくれれば,顧客価値の提供に成功したことになり,その製品・サービスは高品質であると判断されます.
つまり,高品質の製品・サービスの提供=顧客価値提供となります.
ここまでくれば,QMS(Quality Management System)との関係についても理解できるようになります.
QMSとは,“顧客に高品質の製品・サービスを提供するための業務のやり方や仕組み”を意味しています.
上記の考えに従えば,“顧客に高品質の製品・サービスを提供する”という部分を「顧客価値提供」と言い換えて,QMS=“顧客価値提供のための業務のやり方や仕組み”としてもよさそうです.
(そして,これはISO9001をベースにしたQMSモデルとは,その目的や範囲に大きな違いがあることは理解していただけるかと思います.)
次に「品質経営」について説明したいと思います.
今回は,品質管理と品質経営の2つの言葉を意図的に区別して使っています.
「品質管理」については上述したように,顧客,製品,品質の3つのキーワードの理解が重要であり,それと顧客価値の関係性について述べました.
そして,高品質の製品・サービスの提供=顧客価値提供であると捉え,QMSとは言い換えれば顧客価値提供のための業務のやり方や仕組みであると述べました.
一方で,「品質経営」という言葉にはある別の意味をさらに強調するために使用しています.
それは,高品質の製品・サービスの提供(=顧客価値提供)を経営目的の中心に据える,という点です.
もっと大胆に書くのであれば,経営目的=顧客価値提供 です.
経営目的は財務(売上・利益)だろうと思う方も多いかと思いますが,それを獲得するためには顧客に認めてもらう,すなわち顧客価値提供を先に実践しなくてはなりません.
また,我々は売上・利益が不要だとも言っていません.
お客様に認めてもらえる顧客価値を提供するためには投資という意味でのお金は当然必要です.
こう考えれば,経営目的はやはり顧客価値提供であり,売上・利益はその結果として顧客価値提供が成功したかどうかを測る評価指標であり,同時に次の顧客価値提供のサイクルを回す原資でもあると考えています.
我々が提唱している「真・品質経営モデル」を「真・品質管理モデル」とせず,敢えて「品質経営」という言葉を使うのはこのような思いがあるからです.
日本においては大企業を始めとして多くの企業がISO9001を認証取得していますが,そのうち,どのぐらいの企業が「品質経営」,経営目的=顧客価値提供と捉えて真髄に運営しておられるのでしょうか.
“ISO9001は認証取得しておくことが目的で,それ以上でも以下でもない”,“顧客価値創造のことと,QMSや品質管理は社内では別のものとして活動をしています”,さらに“QMSで顧客価値なんて提供できるのか?”などの反応が見受けられるのはとても残念です.
このような状況を打開するのが我々の使命だと思っています.
最後に,以下の質問をさせていただき,顧客価値の解説を終えることとしたいと思います.
Question1:顧客価値を基軸にした「品質経営」をどのように実践されていますか?あなたはそのためにどのような役割を果たすべきでしょうか?
(金子 雅明)