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序論 第1回 ISOを超えて(2015-05-05)

2015.05.01

 

 

■ISO 9001改正

 

本年秋に、ISO 9001の改正版が発行されようとしています。1987年の初版以降の、2回目の大きな改正となります。

初版の1987年版を大きく変えずに、第三者認証の基準にも適用してよいとしたのが1994年版です。

最初の大きな改正は2000年でした。プロセスアプローチを導入し、顧客満足と継続的改善を売りにし、

しかもISO 9004との統一のとれた一対の規格という位置づけの大きな改正を行いました。

2008年には、技術的内容を変えることなく、要求事項が正しく理解されるように配慮した小改正(追補)を

行いました。

 

そして今秋には2度目の大改正がなされます。附属書SLに従った、マネジメントシステム規格に共通の構造、用語、テキストをベースとする規格です。

構造が変わるだけでなく、附属書SLの内容に応じて、例えばQMS設計、リスクの考慮、事業への統合などが強化され、さらにQMSモデルに対する社会ニーズに応じた充実もあります。

これらの内容については、いずれ<テーマ5:ISO 9001改正のこころ>で取り上げていきたいと思います。

 

これらISO 9001の3つの版は、社会ニーズを反映したQMSモデルとして進化してきました。

初版は、基本的には、合意した品質要求事項を満たす製品を提供する能力を実証することによる信頼感の付与という意味での品質保証のためのマネジメントシステムモデルでした。

2000年版は、QMS認証の基準に使われることを意識した、この社会に存在する組織であるならこれだけは備えておいて然るべきというQMSモデルを提示しました。

そして2015年版は、内外の課題を明確にした上での、目的志向の、根拠あるQMS設計を明確に要求するQMSモデルとなっています。

 

ISO 9001は、初版のときから、QMS認証制度の広がりとともに、その有効性について賑やかな話題を提供してきました。

ここでの有効性とは、おもに適用企業の経営、品質管理に有効であるかどうかという観点でのことです。

QMS認証という社会制度の、例えば経済活性化、産業競争力強化などに対する有効性についての検討はとても重要なのですが、別の機会に譲ることにして、ここでは適用企業にとっての有効性に焦点を当てます。

 

■「ISO 9000」は有効か

 

わが国における「ISO 9000」(ISO 9001を基準とするQMS認証)は1990年代初頭から運用されていますから、すでに20年以上の経験を持っていることになります。ISO 9000の有効活用について、それこそ星の数ほどの議論、検討がなされてきました。それにもかかわらず、いまでもときどき次のようなことが話題になっています。

 

  • ビジネス(営業)に必要か?
  • 品質問題低減に効果があるか?
  • 品質保証体制の充実・強化に役立っているか?
  • 経営(事業運営、組織運営)に役立っているか?
  • 売れる商品の企画・開発・設計に役立っているか?
  • 業績向上に貢献しているか?
  • 組織能力(技術力、管理力、活力)の向上に役立っているか?
  • 人材の能力向上に役立ってきたか?
  • QMS基盤強化に役立ってきたか?

 

こうしたことが話題になる深因は、ISO 9001のQMSモデルに限界があるからなのでしょうか。

そんなことは初めから分かっています。組織の品質管理のしくみの基盤に使えばよいだけのはずです。

いやISO 9001の適用の仕方に問題があるのでしょうか。そうかもしれません。

もしかしたら、ISO 9001をベースにしたQMSの構築・運営が経営の有効な道具になりうると受けとめていないことが問題かもしれません。

 

ISO 9001のQMSモデルそのものではなく、認証制度の運用に問題があるのでしょうか。

確かに認証制度そのものに問題は多々あります。しかし、組織がISO 9001のQMSモデルを有効に活用できないこととはあまり関係ないはずです。

認証抜きで自組織にとって有効になるように工夫して活用すればよいのですから。

 

■ISO 9000への期待

 

「ISO 9000」が期待される理由は、ISO 9001が品質マネジメントに関わる規格だからです。

言うまでもありませんが、品質は経営において極めて重要です。

品質以外のマネジメントシステム規格に関わっていらっしゃる方はカチンと来るかもしれませんが、品質のためのマネジメントと他のマネジメントは、相当に異なるのです。

このことを少し考えてみます。

 

経営の目的は、製品・サービスを通して顧客に価値を提供し、その対価から得られる利益を原資として、この価値提供の再生産サイクルを回すことにあると考えられます。

そして品質とは、製品・サービスを通して提供される価値に対する顧客の評価と考えることができます。

すると、製品・サービスの品質こそが経営の直接的な目的となります。これに対し、経営の目的は利益であるという論が一般的ですが、その利益をあげるためには、何にもまして売上を増すために顧客満足という意味での製品・サービス品質の向上が必須となります。

社会・顧客への価値の提供という組織設立の目的を考えるなら、利益をあげることそのものが経営の目的というよりは、顧客に価値を提供し続けるために利益をあげるのだと考えるべきです

 

製品・サービスを通して提供される価値に対する顧客の評価を維持し向上することに焦点をあてたマネジメント、すなわち「品質のためのマネジメント」(=顧客価値提供マネジメント)を品質マネジメントと呼ぶなら、品質マネジメントは経営の広い範囲をカバーするツールとなります。

品質マネジメントにおいては、製品・サービスを生み出すシステムに焦点を当てることが有用です。

それが品質のためのマネジメントシステムです。このシステムは、目的に照らして、必然的に、総合的・包括的なものとなり、結果的に組織のブランド価値向上、さらには業績向上につながることでしょう。

 

このように、品質を中核に置く経営アプローチは、どのような経営環境においても有効な経営ツールとなり得ます。

ISO 9001はその品質のマネジメントに関わる規格ですから、多くの期待が寄せられるのは当然のことで、実際、賢く使えば大きな効果を生むはずです。

 

■ISO 9001の有効活用

 

ところがISO 9001には、そのQMSモデルの性格ゆえの限界があります。

それは、この規格の基本コンセプトに由来するものです。

初版のときに比べれば、内容的に進化してきましたし、2015年版もそれなりに充実しますが、それでも明らかに競争力のある製品・サービスを提供できる組織能力の維持・向上のためのマネジメントシステムのモデルではありません。

ISO 9004よりはレベルの低いモデルですし、ISO 9004自身もいわゆるビジネスエクセレンスのモデルには達していないと自覚しています。

 

これは果たして限界なのでしょうか。

組織は、その事業環境に応じた品質経営を行います。国際規格が提示するモデルを忠実に実施することなど不可能です。

基本的な考え方や、マネジメントシステムの基本構造は参考にしますが、そのマネジメントシステムに埋め込む知識・技術や、事業分野に応じた重要な能力・側面、競争優位に直結するプロセスなどについては、自らが様々な工夫をすべきです。

 

ISO 9001は、もとよりISO 9004もそうなのですが、自らの組織のQMSの構築にあたって参考にすべきQMSモデルの一つなのです。とくに規格の性格上、組織が構築すべきQMSの基盤として活用すべきなのです。

 

■成熟経済社会の品質経営を考察する

 

この<テーマ1:成熟経済社会の真・品質経営モデル>では、ISO 9001を基盤にして、設計・構築・運用・改善すべきQMS、現代の経営に適用したQMSを構築するために、どのような考え方、どのような方法で取り組めばよいのか、考察していきたいと思います。強く意識していること、それは、第一に、経営における品質管理の意味と意義を見直すこと、第二に、成熟経済社会における品質経営のあり方を考察することです。

 

(飯塚悦功)

 

 

( 今週号はGWの連休にあたるため、少々早く掲載しました。以降は毎週月曜日に更新していく予定です。次回は5/11(月)になります。)

 

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