本日から、品質部門配属になりました 第33回 『市場品質の保証)』(その2)
2021.01.12
前回のメルマガで、「品質保証」とは、顧客が製品・サービスを「使用・利用する段階での品質保証」、すなわち「市場品質の保証」を含むものでなければならないこと、「市場品質保証」には、広告・宣伝や使用・利用のサポートや苦情対応など「製品・サービスの品質」には直接含まれない多くの要素が必要になること、それら「市場品質保証」プロセスの優劣が、最終的な製品・サービスの評価を左右する可能性があること、などについて考えました。
次に、「市場品質保証」のために何が必要なのか、及び、そのために品質部門は何をなすべきなのか、について検討します。
前回のメルマガでも触れたように、「市場品質保証」のためには以下のことが必要です。
(1)営業・販売において:当該製品・サービスが実現を意図しているニーズ・期待を持つ顧客に購入いただくこと。
(2)付帯サービスにおいて:納品~使用・利用・廃棄の段階で適切なサポートが提供されること。
(3)不具合の発生時において:迅速・ていねい・適切な対応が行われること
(4)品質保証プロセス全体において:市場品質の測定・評価結果を品質保証のPDCAサイクルに組み込むこと。その中で、企画品質の検証(顧客のニーズ・期待を正しく捉えていたか)も行うこと。
(5)組織全体として:組織(ブランド)の価値を低下させる問題事象を防止し、組織価値を向上させることが、市場品質保証のためにも重要であること。
各々の内容について検討してみましょう。
(注:前回のメルマガでは、「企画品質の検証」を独立した項目として取り上げましたが、今回は、(4)の中に組み入れています)
《「市場品質」を保証するためになすべきこと》
(1)営業・販売(購入前のサービス)
営業・販売とは、あるニーズ・期待を持つ顧客に対して、そのようなニーズ・期待の実現を意図した製品・サービスを紹介し、ニーズ・期待実現の手段として選択していただく活動(顧客のニーズ・期待実現のためのお役立ち)です。
営業・販売は、顧客のニーズ・期待の実現をサポートする「購入前のサービス」であり、以下の二つのことが重要です。
1.広告・宣伝において:当該製品・サービスがどのようなニーズ・期待の実現を意図しているのかを、顧客
の目線から、正しくわかりやすく伝えること。
営業・販売は、顧客と製品・サービスとの「通訳」の役割と考えられます。
製品・サービスの仕様をそのまま伝えるのは通訳ではありません。使用を顧客
のニーズ・期待に「翻訳」して、その製品・サービスによって、どのようなニー
ズ・期待がどのように実現できるのかを顧客の側に立って伝えることが必要です。
2.顧客との“対話”において:相手のニーズ・期待を鮮明にして、そのニーズ・期待を実現する手段として
当該製品・サービスを選択していただけるようにすること
顧客が常に自らのニーズ・期待を正確に理解しているとは限りません。誇大な営業トークによる「押し売り」は論外ですが、製品・サービスの特徴を正しく伝えていたとしても、顧客が自らのニーズ・期待がなんであるかを明確にできていないために、結果としてニーズ・期待にそぐわない選択が行われる場合があります。仮に熱心な営業・販売活動の結果として当該製品・サービスを選択いただけたとしても、ニーズ・期待とのギャップがあれば、最終的には十分な顧客満足にはつながらない可能性大です。そのような場合、リピートオーダーにはつながらず、結果として、市場には当該製品・サービスへの不満情報が拡大・蓄積する危険性もあります。
顧客と製品・サービスとの「橋渡し」として、ニーズ・期待に焦点をあてて営業・販売を展開することは、成約率やリピートオーダーの向上など、効果的・効率的な営業・販売の実現にも寄与することを付記しておきます。
(2)付帯サービス(使用・利用前、使用・利用中、使用・利用後のサービス)
営業・販売を通じてニーズ・期待を実現できる製品・サービスが選択されたとしても、それが顧客に正しく使用・利用されなければ、ニーズ・期待は実現されません。そのためには、以下のことが重要です。
1.納品段階:約束通りの製品・サービス(質・量)が、約束通りの日時・場所に提供されること。
製品によっては、輸送時の保護、据え付け・試運転などによる納品時の品質確認なども含まれます。ここでのミスが顧客満足を大きく左右する場合があります。
2.使用・利用前のサービス:顧客が製品・サービスの特性を理解し、安全に使いこなせるようになるため
の事前のサポートが適切に提供されること。
ラベル表示や、取り扱い説明書(DVD含む)等の分かりやすさもここに含まれます。製品・サービスによっては、使用・利用方法の実地での説明や教育・訓練が必要なものもあります。受注生産型の製品では従来から行われていることですが、量販・市場型製品においても、例えば高齢者向けの製品(一例、通信機器)などでは、このようなサポートの重要性が高まっています。受注生産型製品の場合、顧客のプロセスの担い手に変化(世代交代、外部化)が生じていることから、例えば従来以上に詳細な情報提供が必要になるなど、求められるサポートも変化していることに留意が必要です。
3.使用・利用中のサービス:適切な運用を維持するためのサポートと保守サービスが提供されること。
使用・利用中に必要な情報(例:操作方法に対する質問)にすぐにアクセスできること。関連消耗品の補充が簡単・迅速であること、運用が維持・継続できるタイミングで保守サービスが提供されること。例えば必要な情報に一定時間内にアクセスできなければ、ニーズ・期待の実現度合いは大幅に低下します。
4.廃棄に関わるサービス(使用・利用後のサービス)
撤去や廃棄回収に関わるサービスや適正な廃棄回収・リサイクルのための情報提供なども含まれます。汚染の予防や環境保護の重要性が高まる中で、この分野のサービスの重要性も大きくなっています。
(3)不具合が発生した場合の対応
前回紹介したように、「市場品質」については、“製品・サービスが市場へ提供されてから発生する不具合等の問題市場品質問題)への対応”という視点で取り上げられることが多いように思われます。「市場品質問題」への対応は、「市場品質保証」の柱ですが、これに関連するテーマの多くは、メルマガ第41~43回「クレーム処理、重要品質問題対応」(2021年3月9日から配信予定)で検討が予定されています。
ここでは、
1.「市場品質保証」として対応すべき不具合には、製品・サービスの品質に関わる問題だけでなく、営業・
販売や付帯サービスに関わる不具合も含まれており、これらの問題に迅速・的確・丁寧に対応すると共
に、確実に再発防止を行うことは重要な「品質保証課題」であること。
2.それらの発生した不具合への対応だけでなく、そこで得られた情報を、品質保証のPDCAサイクルに組み
入れることで、市場品質の向上をはかることが重要であること。
の二点を指摘しておきます。
《補足:B to Bの場合に留意すべきこと》
営業・販売~付帯サービスの提供において、B to Bビジネスの場合は、顧客の側も当該製品・サービスが関与する領域の“プロ”であり、自組織が実現したいニーズ・期待、それに関連した製品・サービスの特徴(長所・短所)、付帯サービスに求めることなどについてある程度の認識を有しているという特徴があります。このような場合、一般的な製品・サービスの特性の訴求や付帯サービスの提供にとどまっているなら他社との差別化はできません。以下のようなことに留意が必要です。
・顧客の事業を取り巻く内外の状況の変化を踏まえ、顧客にどのような付加価値を提供することで、
顧客の事業にどのような貢献ができるのか ・・・顧客のどのような困りごとをどのように解決で
きるのか、どのようなうれしいことをどのように増やせるのか ・・・ を明確にすること。
・そのような付加価値の提供に焦点を当てた自社の技術力訴求が重要。そのためには、将来的な顧客
ニーズの予測に基づく先行技術開発テーマのネタとなる情報の収集と社内展開をすすめ、実際に顧
客から新製品開発の問い合わせがあった時にその時点での顧客の「製品」仕様の実現手段にあった
開発技術をタイムリーに提案出来るようにするとともに、その「製品」提供のための「顧客」のビ
ジネスプロセス(設計、製造等)の問題解決につながる活動、すなわち顧客ビジネスプロセス上の
価値提供が出来ることが重要になります。
顧客の多くが、事業を取り巻く外的条件の変化や、プロセスの担い手の世代交代・外部化などの変化の中で、解決すべき新たな課題に直面しています。そこから生まれる新たなニーズ・期待に焦点を当てた営業・販売、付帯サービスの活動を展開することで、製品・サービスの市場価値を高めることができます。それはまた、新たに実現すべき製品・サービスのニーズ・期待の発見にもつながっていくでしょう。
今回は、紙面の都合でここまでとして、(4)「市場品質」を製品・サービス実現及び品質保証プロセスのPDCAサイクルに組み込む、及び、(5)組織全体の問題として取り組む、については次回メルマガで検討します。
(土居 栄三)