超ISO企業研究会

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活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第11回 金子雅明

2016.10.30

 

 

あけましておめでとうございます.今回は,金子雅明がつぶやきます.

 

実は,2年前から農業分野の品質管理についても勉強を始めました.

 

きっかけは,超ISO企業研究会で提唱する真・品質経営実践ツールを広めるためのセミナーを行った際,受講者の一人に栃木の玉ねぎ農家の2代目で,父親からの円滑な事業継承とともに,変化の時代にどう生き残っていくべきかのヒントを得るために参加していた方(A氏)とお出会いです.

 

セミナー後にA氏からお声をかけてもらい,1年間の様々な活動を通じて2年前からA氏とともに発起人となって,栃木若手農業経営実践塾を立ち上げました.

 

参加者には米,玉ねぎ,イチゴ,なすなどの生産者を中心として,地元の農機具,農肥料の販売卸,金融機関,JA関係者もいます.

 

金融機関,JA関係者以外はいずれも現2代目か,これから父親の事業を引き継ごうとしている20代~30代の若者ばかりです.

お金はありませんが,知恵と情熱は大いにあるので,毎月集まって活発に議論しています.

 

 

2016年の1年間は,私の研究室に所属する学部4年生1名を投入して,A氏の農園において,玉ねぎの生産方法,ノウハウ,技術を可視化することにトライしました.簡単に言ってしまえば,品質保証体系図を作ろうとしたわけです.

 

通常,品質保証体系図の縦軸は,企画→設計・開発→購買→生産→販売・・・という品質機能の流れになり,横軸はそれを担当する部門を記入します.

 

まず最初に悩んだのは縦軸をどうするかですが,ここについては,従来の文献を調べた結果,種の選定・入手から,育苗,播種(種まき),定植,栽培管理,収穫,梱包・保管,出荷までの一連の流れ(これを生育モデルと呼んでいる)としました.横軸については,親族を中心とした個人事業主の専業農家でしたので,部門を並べることはやめました.

 

 

その代わりに,生育モデルの各段階に対応させて,QC工程表を参考に以下のような9つの項目を設定しました.

 

1)品質基準・・・生育モデルの各段階において到達すべき玉ねぎ(または,その中間製品)の品質に関わる基準,目標

 

2)環境条件・・・玉ねぎの品質基準を満たすために維持しなければならない周辺環境条件(例えば,発芽適温20℃,生育過程で5~10℃の低温に30日以上遭うことなど)

 

3)作業工程・・・環境条件を維持するために当該生育モデルの段階で実施すべき作業の工程名(育苗ハウスづくり,土壌診断,苗床づくり,圃場づくり,定植,除草剤散布,草取り,根切り,うね寄など)

 

4)時期・・・上記3)の作業工程を実施する標準的な時期

 

5)作業場・・・上記3)の作業工程を行う場所,作業環境

 

6)担当者・・・上記3)の作業工程を担当する人

 

7)機械・資材・・・上記3)の作業工程で用いる農機具や資材の名称,規格,量,及びその使用方法

 

8)知識・技術・・・上記3)の作業工程を行う際に留意・注意すべきこと,必要となる特別な技能

 

9)異常管理・・・測定項目,判断基準と必要な対応の3項目から成る.主に,上記

 

 

2)の環境条件を逸脱する可能性がある場合に事前または事後にやっておくべき対応策(主に天候,害虫,病気対策に対して)そして,このテンプレートをもとに,再度の文献調査,A氏の父親への聞き取り調査,農園現地での実地調査を行い,何度も書き直していきました.

 

昨年の12月19日に,手伝いをしてくれた学部4年生の卒論テーマ報告という形で,実践塾の中で発表してもらいました.

 

市の農業振興担当者にも来てもらい,農業で使えるツールであり得るかについても好評価をいただきました.”他の農家さんでもこれを作ってみることは大いに意義がある”というコメントと共に,参加した農家さんからも”実際にやってみたい”との声も聞かれ,来年度につながる活動になったなあと,ほっとしたところでした.

 

最後の締めくくりとして,後ろにいた参加者の一人が言った言葉が心に強く残っています.卒論テーマ報告に対する参加者からの質疑応答が終わろうとしたところで,とあるJAの方が”何でもかんでも工業製品のように標準化できるものではない.

 

農業は工業製品とは違い,生き物であり,自然を相手にしている...”などの趣旨のコメントをされました.

 

私はすかさず,この方は標準化=画一化と誤解しているなあと感じて補足説明しましたが,あまり納得顔ではない.その時に,後ろに座っていた参加者の一人が”我々農業だけが特別であるとあまり考えすぎない方が良いと思う.農業にしかない特徴はあるとは思うが,そればかりに縛られていてもいけないのではないか”というコメントをしました.

 

私を除けば参加者の多くは農業関係者でありましたが,ほとんどの方がこのコメントにうなずいていました.

 

もう既にご存知かもしれませんが,筆者の専門分野は品質管理です.10年程前からは主に工業製品分野で培われた品質管理の考え方やノウハウ,手法などをベースとしながら,医療サービスの品質保証に取り組んできました.

 

 

顧客である患者の多様性・個別性がある,失敗したらやり直しがきかないなど,医療サービスには工業製品にはない特徴が多く存在していますので,当初は工業分野で培った品質管理手法は通用しないのではないかと心配しましたが,それほどでもなく,医療サービスの特徴をきちんと考慮しながら上手に適用すれば,医療の質向上に大いに貢献できうるということを実感しています.

 

当時は,医療は(他の分野と異なり)特別であるという風潮が少なからずあったように思いましたし,ISO9001を始めとした品質マネジメントシステムを導入しようとする先駆的な病院の医療者でさえもその多くは当初はそう思っていたように記憶しています.

 

確かに,医療技術レベルの高さ・複雑さはすごいものがあると思いますが,だからと言って医療だけが特別そんなことはないはずと考えていましたし,実際にそうでした.

 

私が経験した農業と医療の両分野に共通点がありました.いずれも他の産業分野とは大きく違い,自分野は特別だと必要以上に考えてしまうという傾向です.これが行き過ぎると,外からの有用な知識を取り入れようとせず,成長の機会を自らが捨ててしまうことになりかねないなあと思ってしまいます.

 

外部の人間から見れば,そこにチャンスが埋もれているともいえます.なぜなら,”自分は特別だ”という言葉の半分は確かにその通りかもしれませんが,残りの半分は必要以上に協調された領域であまり深く(科学的・工学的に)考えてこなかった可能性が大であり,その中に成長の大きな伸びしろが隠されていると考えられるからです.

 

“自分は特別だ”と聞こえてくる分野・領域には大きな成長のチャンスが隠されているかもしれない”

 

そう感じた昨年末の出来事でした.今年もどうぞよろしくお願いいたします.

 

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