ISO9001改正のこころ 第3回 組織の能力(2015-10-26)
2015.10.26
「組織の能力」を一般的な用語として読み飛ばしてはならない。組織の能力は組織に固有なものであり、これからの製品及びサービスの質の証としての「組織の能力」の実証のコアとなるものである。
3.1 「組織の能力」
英語でshallと表記される要求事項の読み方は、いままでと変えなければならない。今までは、shallに直接続く動詞に掛かる部分を要求事項と考える人が多かった。例えば、箇条4.1「組織及びその状況の理解」の要求事項は、文の最後にある「・・・外部及び内部の課題を明確にしなければならない。」である、と理解されていた。しかし、文中にある「組織の能力」は、組織として明確にしておくべきものであり、そうでなければ、「外部及び内部の課題の明確化」は、結果として組織の現状に合わない形式的なものになってしまう。従来までの読み方だと「組織の能力」はあまり重要視されてこなかった。認証審査でも、従来の審査の仕方では「外部及び内部の課題の明確化」に焦点が当てられ、「組織の能力」は審査の対象にはならないであろう。
2015年改正における箇条4.1「組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,・・・」の部分は、全部が規格要求事項であると受け止めるべきである。従来もそのような考え方で規格を読んでいたはずであるが、2015改正を経てそのことが一層明確になった。「組織の能力」は、箇条4.1「組織及びその状況の理解」に初出するが、以降、次の4か所の箇条にキーワードとして出てくる。これら4か所のいずれにおいても「組織の能力」という用語は組織に固有なものとして考えてQMSを構築しなければならない。組織に固有な能力を明確にしておかないと、規格の文で「・・・組織の能力に影響を及ぼす」と規定されても、具体的な対応を取ることができないので、その結果QMSは効果のないものになってしまう。
- 1か所目:「4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解」
“次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない。”
- 2か所目:「4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」
“組織は,品質マネジメントシステムの適用範囲を定めるために,その境界及び適用可能性を決定しなければならない。
(中略)
適用不可能なことを決定した要求事項が,組織の製品及びサービスの適合並びに顧客満足の向上を確実にする組織の能力又は責任に影響を及ぼさない場合に限り,この規格への適合を表明してもよい。”
- 3か所目、4か所目:「8.4.2 管理の方式及び程度」
“組織は,外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,顧客に一貫して適合製品及び適合サービスを引き渡す組織の能力に悪影響を及ぼさないことを確実にしなければならない。
組織は次の事項を行わなければならない。
(中略)
c) 次の事項を考慮に入れる。
1) 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を一貫して満たす組織の能力に与える潜在的な影響
2) 外部提供者によって適用される管理の有効性”
これら4か所の「組織の能力」は、いずれも組織に固有な能力と読まなければならない。組織の能力を一般的な言葉として読み飛ばしてしまうと、上述の4か所の要求事項は意味のないものになってしまう。
組織にはいろいろな能力があるから、それらの多くの能力のどの能力と関係してくるのかを理解して、QMSの構築を計画する必要がある。そうでないと、ISO9001;2015が意図している組織のパフォーマンスは上がらないであろう。
3.2 商品開発力 - 組織の能力その1
「組織の能力」には一般的に次のようなものがある。
組織の能力でまず上げられるのは商品開発力であろう。組織が厳しい市場競争に勝っていく上で、最も重要となるものが新商品の開発である。これは競争相手に製品及びサービスで差を付けるうえで必須なものである。組織の業種(製造業、建設業、またはサービス業)によって商品はまったく異なるが、「商品開発」能力は組織に固有な能力として、最初に上げられるものであろう。例えば、製造業でいえば要素開発力であったり、建設業では新工法開発力であったり、またサービス業ではデータ分析開発能力であったりする。
一般に商品には、萌芽期、成長期、成熟期、衰退期の4つのサイクルがあるが、競争の激しい業界では、このサイクルが年々短くなってきているといわれている。将来を見据えての新商品戦略は組織の生死を決するものといっても過言ではない。
3.3 製品及びサービスの実現能力 - 組織の能力その2
一般に固有技術と呼ばれる能力の多くがこの範疇に入る。物づくり、サービス提供の具現化には、可視化され、形式化された能力以外に、可視化できない人に内在化された技能が存在する。匠と呼ばれるベテランの人にはその人だけが持つノウハウがあり、そのような技能が組織競争力を支えているという場合も多い。さらにこの能力は内部の能力に限らない。製品及びサービスを実現する過程で、外部の力を設計、購買、製造などにおいて利用することが多い。外部の力を活用する能力、すなわちサプラーヤを評価したり、交渉したり、契約する力のこのカテゴリの組織の能力に含まれる。
今回の改正で箇条「7.1.6 組織の知識」に次のような規定が新たに制定された。
「組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。
注記:組織の知識は,次の事項に基づいたものであり得る。
a)内部の知識源(例 知的財産,経験から得た知識,失敗から学んだ教訓及び成功プ
ロジェクト,文書化していない知識及び経験の取得及び共有,プロセス,製品及びサービスにおける改善の結果)
b)外部の知識源(例 標準,学界,会議,顧客又は外部の提供者からの知識収集)」
3.4 経営資源の管理力 - 組織の能力その3
組織には多くの経営資源がある。人、機械、建物、IT設備、その他製品及びサービス実現に必要となる機械装置などである。それらの資源を適切に管理する力は、組織になくてはならないものである。特に人の管理に関する能力は、組織の根幹をコントロールする極めて重要な課題であると捉えなければならない。人がモチベーションを持ち、目的を知り、最高の能力を発揮すれば、そうでない場合と比較して組織のパフォーマンスに雲泥の差が出ることは、多くの組織が経験しているところであろう。当然のことであるが、人の能力は組織のあらゆる場面のパフォーマンスに影響を及ぼすものである。
3.5 QMSの運用力 - 組織の能力その4
QMSを構築し、運用し、継続的に改善することも組織の能力である。QMSは一度構築しても年々手を入れていかなければならない。世の中は変化していくので、この変化に合わせて自分自身も変わっていかなければならない。組織の経営環境を分析し、評価し、今後の進むべき進路を判断する能力は、組織の命運を決めるほどに重要なものである。これらの能力により、組織は方針を決め、目標を設定し、プロセスを変更することになる。
この能力に関して重要なことは、変化させることと、変化させてはならないことの峻別である。世の中が変化するからといって、自分たちの本質を変えてはならない。頑なに自身の本質を維持することで不祥事に巻き込まれたりせず、長い間世の中に存在できた組織がある。逆に、変化を受け入れられず滅びて行った組織もある。
次のことは、変化させるべきことか、変化させてはならないことか考えてみてください。
戦略、良心、組織構成、行動規範、tolerable risk、ドメイン、順法精神、士気、能力基準、業績評価、管理監督項目、市場、組織目標、責任/権限、人材、経営資源、
資金、建物、設備、環境保全、理念、社是、倫理、製品、お客様、供給者、パートナ、 株主、地域社会、組合、安全、衛生、考課、コミュニケーション、IT技術、イベント、 教育訓練、福利厚生、研究開発、広告宣伝、消費者対応、クレーム処理、検査、輸送、 製造、リーダー、リーダーシップ、マネジメント、人事労務管理、交流会(イベント、オープンデイ、レクリエーション)ビジョン、ミッション、バリュー、ガバナンス、 コンプライアンス、CS、モチベーション、ロイヤルティ、ステークホルダー、マネー、IR、マーケティング、CSR、プロフィット、セルフアセスメント、ターゲット、マネジャー |
【峻別の回答例】
○変化するもの/させるもの
Man:能力基準、業績評価、管理監督項目、組織目標、組織構成、人材、経営資源、考課、コミュニケーション、交流会(イベント、オープンデイ、レクリエーション)、教育訓練、福利厚生、人事労務管理、ビジョン、ミッション、バリュー、セルフアセスメント、ターゲット、責任/権限、組合、検査、輸送、製造、リーダー、リーダーシップ、マネジャー、マネジメント
Machine: 経営資源、建物、設備、IT技術、tolerable risk
Money: 経営資源、資金、株主、マネー、IR、プロフィット
Material: 経営資源、環境保全、供給者、パートナ
Product:製品、クレーム処理、ドメイン、研究開発、広告宣伝
Customer:戦略、市場、お客様、地域社会、消費者対応、CS、マーケティング
○変化させてはならないもの
良心、行動規範、ロイヤルティ、順法精神、士気、モチベーション、理念、社是、倫理、安全、衛生、ガバナンス、コンプライアンス、ステークホルダー、CSR
(平林良人)