概念編 第10回 事業シナリオとは(2015-07-27)
2015.07.28
■事業シナリオとは
前回は,確固たる競争優位要因を構築するためには,競合他社にはない自社独自の特徴を競争優位要因に活かす,
すなわち,“自社の特徴の能力化”が大切であることをお話ししました.
自社のどのような特徴をどのような能力として活かすべきかは,その会社の“事業シナリオ”に依存します.
今回は,その事業シナリオとは何かについてお話をしたいと思います.
事業シナリオを描くというのは,
“ある事業環境の中で,自社独自の特徴のうちどれを活かしてどのような組織能力を発揮し,その結果として顧客に対してどのような顧客価値を提供するのか”
を明らかにすることであり,自社の当該事業を成功に導くための道筋・筋書(シナリオ)です.
通常は,経営者やその事業担当者が頭の中で事業シナリオを描き,それを中長期戦略や経営・事業運営方針に落とし込んでいるはずです.
その頭の中で考えていることを紙で可視化してもう一度整理しておくことで,その筋書きの不備や改善点が見つかりやすくなりますし,何よりも社員との間で自社はどのように生きていくつもりであるのかについての共通認識が持ちやすくなります.
以前にも紹介したノイズ・サージ対策部品を製造販売しているA電子部品メーカでの分析では,以下のような事業シナリオがあることがわかりました.
・顧客:大手電化製品組み立てメーカ
・顧客価値:“何があっても絶対に壊れない・燃えない信頼性”,“適切なノイズ・サージ対策方法を教えてくれる”
・競争優位要因:“確実に信頼性が保証された製品の設計力&安定した生産管理能力”,“ノイズ・サージの総合的な対策に対する高い評価・診断力”
・自社の特徴:“高い信頼性設計技術”,“生産設備保全管理技術”,“顧客製品の使用環境,使用条件に対する知識”,“不具合情報(サージ発生メカニズム)の豊富な蓄積”,“高い評価技術・評価設備の保有”,“愚直にお客様のためになることは何ですぐにやるという社風”
この事業シナリオの内容そのものも重要なのですが,この事業シナリオを作成する過程で営業部長や研究開発部長,経営企画室長,製造部長などが何度も話し合いを行い,その結果としてA社の経営幹部全員が上記の事業シナリオに関して統一した見解が持て,A社の事業運営に向けて一致団結できたたことが最も大きな効果であったように思います.
■事業環境を理解する
では,この事業シナリオをどのように描けばよいでしょうか?
まず最初にやらなくてはならないことは,事業環境の理解,です.
なぜなら,自社を取り巻く事業環境によって,提供すべき顧客価値,発揮すべき組織能力,そしてその組織能力に活かすべき自社の特徴が大きく変わり得るからです.
上記の事業シナリオの定義の中に“ある事業環境の中で”という限定修飾語が付いているのもそのためです.
Question:あなたの会社はどのような事業環境の中で事業を営んでいるのでしょうか?
多くの企業では,今の事業環境に長く居たせいなのか,改めて自社がどんな事業環境の中にいるのか,もう少し言えば,どうしてこの事業が成り立っているのかを鳥瞰図的な視点で見ることを十分にはやっていないように思います.
我々超ISO企業研究会では,事業環境を理解するとは,
(1)どのような事業関係者がいるか
(2)各事業関係者がどのように関わっているか
の2点を明らかにすることとしています.
(1)に関しては,例えば自社の製品をお客様に届けるために“商社・代理店”などを介していることが多いと思います.
B to C企業であればこれが“小売り関連会社”になるでしょう.
また,自社の製品は何も自社だけで作れるものではなりません.必要な部品(半加工品)や材料を調達してくることもあるでしょう.そうであれば,“部品・材料供給者”も事業関係者の一人になります.一部の業務を外部委託(アウトソース)している場合もありますので,その場合は“外部委託会社”も該当します.
ときには,研究開発や製品設計に必要な知識や技術情報の提供・サポートをしてもらう“研究開発・設計協力会社”の役割も重要です.
地域に根差したビジネスをしているのであれば,“その地域(県,市町村)の自治体”も関わってきますし,“官公庁や国・政府”も関わってくることもあるでしょう.
さらに,自社に直接関わっている会社だけでなく,“競合他社”や“その競合他社と何らか関連している会社”もすべて事業関係者になります.
このように,あなたの事業を取り巻くあなた以外の関係者,すなわち事業関係者は多く存在しており,これらをきちんと理解しておくことが重要です.
次に,これら各事業関係者間で具体的にどのような情報やモノのやり取りをしていて,互いに何を期待していて,当該事業で何を得たいのかを明らかにすることが(2)になります.
例えば,“部品・材料供給者”について言えば,
・部品・材料供給者はなぜあなたの会社と長く付き合っているのでしょうか?
・なぜ,競合とは付き合っていないのでしょうか?
・自社と競合の両方と付き合っているのであれば,その部品・材料供給者はそれぞれをどのように使い分けているのでしょうか?
・自社がどうなったら,その部品・材料供給者は自社とのビジネスをやめていくでしょうか.
逆に,どうであれば,その部品・材料供給者は喜んで自社とより深いお付き合いを今後するようになるのでしょうか?
このような質問にひとつひとつ答えていくことが,事業環境を理解することになります.
そして,この理解なしに,筋の良い事業シナリオを描くことはできないのです.
次回は,“事業シナリオの描き方”についてお話したいと思います.
(金子雅明)