概念編 第6回 競争優位となる組織能力の認識(2015-06-29)
2015.06.29
今回も、組織能力について続けます。
前回のメルマガを参考にして,ご自身の会社が提供している顧客価値を実現するために必要な組織能力を、いくつ挙げることができましたでしょうか.
もしいくつかを挙げていただけたとすれば,これらの組織能力をきちんと自社で発揮できるようになれば,狙いとする顧客価値をお客様に提供できるようになるはずです.そうなれば,お客様があなたの会社を選ぼうとする理由・根拠を形づくられていくことになります.
しかし以前も説明しましたように,一般的に同じ顧客価値を提供する競合相手は存在し,彼ら(彼女ら)もあなたと同じようにお客様に選んでもらおうと努力しています.
このような環境下でお客様から競合ではなく自社を選んでもらうようにするためには,競合と比べて優位さのある顧客価値を提供できなくてはなりません.
そして,そのために最も重要となる組織能力が何であるかを認識することが大切になります.
このように,ある競争環境下で自社が競争優位を確立するために必要な組織能力のことを“競争優位要因”と呼んでいます.
Question 1:挙げた組織能力の中で,競合との勝敗(勝ち負け)を決める競合優位要因はどれでしょうか?
類似の質問として以下のような質問もよく行います.
・もし熾烈な競争環境下において,なかなかお客様から継続して選んでいただけていない現状であれば,どのような組織能力をさらにレベルアップしたり,新たに身に付けることによって競争優位を確立できるようになるでしょうか.
・もし競合が圧倒的にシャアを伸ばしているなら,その競合の競争優位要因を理解していますか.
・競合と自社の競争優位要因は同じでしょうか,違うのであれば何が違うのでしょうか.
このような質問をする背景には,私たち超ISO企業研究会では,組織能力を次の3種類に分類できるだろうという考えがあります.
一つ目は,
「①事業においてビジネスを行う上で最低限必要な組織能力(群)」です.
前回挙げていただいた組織能力はまさにこれに相当し,言い換えれば,あるひとつの顧客価値にフォーカスして,それを提供するために必要なすべての組織能力を列挙してもらった,ということになります.
それを確認する意味で,前回の終わりで“顧客価値提供に関係する組織能力だけを抜け・漏れなく挙げていますか?”の質問を準備しました.
二つ目は,
「②その事業において競争優位を獲得するために必要な組織能力(群)」です.
ここは誤解されることが多いのですが,自社だけでなく競合他社の競争優位要因を含めたものとなります.
もう少し具体的に言えば,その事業において一般的にどのような勝ち方・勝負の仕方があって,その際に上記①で挙げた組織能力のうちどの組織能力が決め手となるかを明らかにします.
自社という立場から少し離れて,鳥瞰図的な視点からご自身の競争環境を理解することを意味しています.
最後の三つ目は,
「③その事業における“自社(あなたの会社)”の競争優位を獲得するために必要となる組織能力(群)」です.
③の組織能力は,当然②の組織能力の一部から構成されています.これは理解しやすいでしょう.しかし,これだけではありません.少し複雑ですが,“②の組織能力には含まれていない①の組織能力の中で,業界平均レベルに達していない自社の組織能力”も③の組織能力に含まれます.
つまり,
③の組織能力=②の組織能力の一部 + 業界平均レベルに達していない①の組織能力
ということになります.
言葉で表現すれば,「業界平均レベルに達していない①の組織能力」を業界平均レベルに上げることによってこの事業で自社がビジネスを円滑に行える能力を確実に身に付け,同時に「②の組織能力の一部」を強化することで市場での競争優位を実質的に確立する,ということになります.
これまでの筆者の経験によれば,「業界平均レベルに達していない①の組織能力」を認識することは比較的容易ですが,その事業における一般的な勝ち方・競争の仕方,競合の競争優位要因を十分に理解しないままに(つまり,②の組織能力を十分に理解しないままに),自社の競争優位要因(③)を決めてしまっていることが多いように見受けられます.
これは,“競合の情報を調べる手段がなく大変だ”という理由もあると思いますが,“自社の競争優位要因は自社独自のモノであって,競合なんて関係ない”という考えがあることのほうがより大きく影響しているのでしょう.
確かに競合の競争優位要因をそのまま真似するのはダメですが,真の競争優位とは常に顧客の立場から見た競合との差異によって形成される点を理解しさえすれば,“競合なんて関係ない”とは言えなくなります.
是非,読者の皆様にも競争優位となる組織能力を的確に認識していただきたく思います.
(金子 雅明)