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9/25開催フォーラムの記事(第2部パネルディスカッション)

2014.10.16

第2部 パネルディスカッション

第2部は飯塚会長をはじめ、超ISO企業研究会で実際に企業のコンサルティングを行っている4名の講師陣と、同研究会のコンサルティングを受けている企業を代表して、株式会社アイデクト代表取締役社長・栃村克彦氏を招いて、「品質経営の実践的な取り組み方」についてのパネルディスカッションが行われました。DSC_0059a

■コーディネーター
超ISO企業研究会副会長・兼・株式会社テクノファ取締役会長:平林良人
■パネラー
超ISO企業研究会会長・東京大学名誉教授:飯塚悦功
超ISO企業研究会副会長・東海大学講師:金子雅明
独立行政法人製品評価技術基盤機構技術顧問:住本守
株式会社アイデクト代表取締役社長:栃村克彦

■品質経営に取り組むきっかけは、“自己流経営への焦り”

(平林):
基調講演の内容を踏まえて、品質経営実践ツールの具体的な導入・活用方法についてのパネルディスカッションを行いたいと思います。まず、現在もコンサルティングを受けている最中である栃村さんに話を伺いたいのですが、なぜ今回、超ISO企業研究会を活用して、品質経営の強化に取り組もうとしたのでしょうか?

(栃村):
弊社の主な事業内容は屋外広告の制作・施工です。創業37年になるのですが、約15年ほど前に父親から引き継ぎ、そこからは自己流で経営を進めておりました。しかし、今後も事業を継続的に発展させていくには、一度これまでやってきた事業内容を整理して、ゼロベースからシステムを構築していく必要があると感じたんです。私は青年会議所にも所属しているのですが、そこで超ISO企業研究会を紹介していただき、よいきっかけになると思ったのでコンサルティングを受けることにしました。DSC_0078a

(平林):
実際には金子先生と住本先生が指導に当たられたと思いますが、当時の状況などをお2人からもお話いただけますか?

(金子):
栃村さんがまだ若い経営者ということもあり、アイデクトさんは変化に柔軟な企業という雰囲気がありました。しかしこれまでの話を聞くと、すでに現場にはかなりの負荷がかかっているようでしたし、さらに、栃村さん自身も今後の経営に壮大な夢をお持ちのようでした。今後、夢を実現していくためには、まずは今の事業シナリオを明らかにして「なぜ成功してきたのか」を整理し、次のチャンスがきたときに対応できるようになる必要があると感じました。また、これまで時流に沿って事業を変化させ、現場にもそのぶん負荷をかけてきましたが、それをいつ・誰がやってもうまくいくようにシステム化するにはどうするべきかも考える必要があると思いました。

(住本):
他の企業にも同じことが言えますが、社長がビジョンを持っていて、それを社内全体で共有しようというときに、QMS(クオリティマネジメントシステム=品質管理システム)をツールとして使おうとするという機運が大切だと思います。栃村さんの会社だけでなく、そういった企業が今後増えてくればいいと思いました。DSC_0088a

■自社の価値とコアコンピタンスは顧客によって変わる

(平林):
栃村さんは今回のコンサルティングを経て、なぜご自身の会社がうまくいってるのか、ご自身の会社の価値はどこにあるのか見えてきましたか?

(栃村):
まだ途中段階なので断言はできませんが、これまで頭に浮かべていた顧客や協力会社、関わっている人をすべてフォーマットに落とし込んで、「どこにリソースを集中すべきか」を明確にしていったところ、自分のなかで「強み」と思っていた部分が実はあいまいであることがわかりました。逆に、これまで社内では当たり前に思っていたところが、実は顧客からすると「価値」と感じてもらえているのではないか、という場面もあり、どちらも非常に納得感は得られている状態です。

(平林):
「価値」という話がありましたが、金子先生は、栃村さんの会社のコアコンピタンス(競合優位性)は何だとお考えですか?

(金子):
栃村さんの会社の場合、お客さんによってコアコンピタンスも変わります。例えば大型量販店や物販系の場合、看板のデザインで優位性をつけることは難しく、それよりも「問い合わせから提案・納品までのスピード」が求められていました。制作のスピードについては競合他社と大差ないレベルなので、ポイントとなるのは「レスポンスの速さと精度」。栃村さんの会社の営業は製品の仕様に関する知識が豊富で、得意先からの問い合わせにその場で返事をできることが多く、また、現場への落とし込みも具体的で早い。そうした「営業力」がコアコンピタンスになっていると思います。DSC_0079a

■品質経営を進めるための社内でコミュニケーション

(平林):
自社の価値やコアコンピタンスがわかると、それを今後の品質経営に活用していくことになると思いますが、方向性や強みは社内で共有することが不可欠になると思います。そうしたコミュニケーションはどのように行っていますか?

(栃村):
いま、社員は15名です。指導していただいてわかったことなどは積極的に社員に話すようにしているのですが、社員としてはこれまで当たり前のようにやっていたことを褒められただけなので、反応が薄いのが現状ですね(苦笑)。また、今の時点で全てを話せているのは5名程度であって、これを全社員に広めるのは口頭だけでは難しいと思っています。これからビジョンや価値を可視化するうえで、社員への伝え方はいま使っているツールのフォーマットがいいのか、別の文書がいいのか、映像がいいのかも考えなければならないと思っています。

(住本):
栃村さんの話にもあったとおり、品質経営実践ツールはこれまでの経営を見直すためのツールだけでなく、社内共有のためのコミュニケーションツールにもなります。ツール内にある4つのモジュールのなかで、モジュール1ではこれまでの思考プロセスを全部整理して書き出すことになりますが、その情報はまさにコミュニケーションツールとしての役割も果たしています。ただ、仕組みや制度があっても、最終的にはその会社の風土や文化に頼らざるをえない部分はあるかもしれないですね。

(飯塚):
品質の国際規格であるISO9001にも、可視化するための文書が必要とされていますが、これには3つの理由があります。1つはコミュニケートするため。1人で取り組むならば特に明文化は不要ですが、人と関わる以上は必要となります。2つ目は知識の蓄積のため。文書で残されていれば、知識は再利用できます。3つめは証明のため。自分がしたことを記録に残しておくことは客観的な証拠になり、自身を助けます。この3つの理由のなかでも1番大切なのは2つ目の「知識の蓄積」です。俗人的にやっていた経験や知識を再利用するためには必ず文書化が必要になりますし、それが「変化」に対応するための財産になります。DSC_0096a

■「変化」は脅威やリスクでなく、機会となる

(平林):
「変化」という話は基調講演にも出ていましたが、「変化」に向けてどのようなことを配慮すべきなのでしょうか?

(飯塚):
外部環境が変化した場合、現状はベストだと思われていたものがベストではなくなる可能性があります。そのときに自社も変化して適応する能力が試されるのです。物流業界や医療業界は特に今後、ドラスティックに変化が求められる場面がありそうです。そういった企業はなおさら、自分がどのようなポジションにいて、どのように変わらなければいけないかを考えてもらいたいです。その際には4つのことを意識してほしいと思います。

① 外部の変化の状況が把握できる。
② 自分のあるべき姿がわかる。
③ 自分の特徴を活かす方向に変えることができる。
④ 変化に向けて行動することができる。

自社を「変化」させる際にはぜひ、上記の要素を経営戦略のなかに落とし込んでほしいと思います。

(金子):
品質経営実践ツールのモジュール3にも「変化」に対する項目があるのですが、その前段として「まずは今まで成功してきた理由を書き出す」という作業があります。自社技術は何か、どういった顧客がいるのか、業界のトレンドは何かを考えて、これまでの成功の秘訣を導いてもらうのです。それがわかったうえで、この前提を「変化」させたときにどういった影響が出るかを考えてもらっています。場合によっては、「変化」は脅威やリスクでなく、機会となる可能性があることを教えています。

■ 品質経営の目的は、能力を継続的に発揮すること

(平林):
ここまで話を伺ってきましたが、栃村さんは品質経営を取り入れて、今後どのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?

(栃村):
弊社は職人的な気質が強く、1人あたりの仕事に幅を持たせた方が本人もやりがいを感じやすい環境なので、会社全体を大きくするイメージというよりは1人ひとりが独立採算的に成果をあげて、結果的に会社も伸びていくといった企業イメージを考えています。そのためにもビジョンや価値を共有するツールは必要だと思うので、それらをうまく活用して理想の会社にしていきたいと思います。

(平林):
超ISO企業研究会としては、既にいくつかの企業で品質経営実践ツールのモジュール4までいった実例も持っているそうですが、ツールをつかったコンサルティングはどの業界でもいけるものなのでしょうか?

(金子):
いままで製造会社、デザイン会社、web系企業などを見てきましたが、「モノ」を扱う企業はどうしても商品自体に固執してしまいがちで、無形のサービスを作っているところの方がその先にある「価値」の考え方は浸透しやすいようです。それでも、どの業界でもこうした「価値」を前提とする品質経営はできると思いますし、ツールも2~3年前と比べるとかなりスムーズに進行できるようになってきていると思います。

(住本):
具体的なコンサルティングの方法についても簡単に話しておきますが、指導のスタイルは基本的に対面でこちらから問いかけて、それに答えてもらうかたちになります。出席者は社長だけでなく、社員の方も参加されるケースもありますね。もちろんツールを使って進行していくのですが、それを月に1回、長くても3時間程度で進めています。こちらからの問いかけに対してすぐに回答が得られないものについては、一度社内に持ち帰ってもらうこともありますが、最終的にはそれらはすべて可視化されていくといったイメージです。

(平林):
最後に飯塚先生にお伺いしたいと思います。今後、企業のグローバル展開がさらに進んでいくと思いますが、品質経営は世界経済にも対応しうるものなのか、今後の展望も含めてお話いただけますでしょうか。DSC_0091a

(飯塚)
この会場に来られている方は既にISO9001を取得している方も多いと思いますが、品質経営の本当の目的は、それらを通して自社の強みを持続的に発揮してもらうことです。ツールに沿って取り組んだ結果、きちんと価値を提供できているのか。そのプロセスはシステム化できているのか。そんな見方をしてほしいと思います。また、環境によって強み・弱みは変化することも忘れないでほしいですね。スポーツだってルールが変われば強さ・弱さが変わりますし、競争優位性もそれと同じです。いま不利なことは将来、有利になる可能性があるということを忘れずに、変化を先読みしながら適応させてもらいたいと思います。アジア経済のなかでも、自社の能力を活かすように変化させていけば、日本の企業はいくらでも通用すると思います。日本という国が今後、競争力を持つためには、それぞれの組織がどういったことに取り組まなければいけないかということを品質経営の観点を踏まえて、今一度考えてもらえればと思います。

 

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